「社長は君しかいない」 社会人2年目が廃業寸前の「老舗かまぼこ店」を黒字化できたワケキャリアを180度変え、斜陽産業に挑む挑戦者たち(4/4 ページ)

» 2026年07月06日 07時30分 公開
[濱川太一ITmedia]
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無理な成長は目指さない

 改革は徐々に成果を生み始めた。事業再開後の最初の2年間は赤字が続き、特に2期目は「事業を畳んだ方がいい」と言われたこともあった。

 それでも林田さんは販路開拓を続けた。

 料亭やそば店への飛び込み営業で販路を開拓するとともに、人員配置や資材調達の見直しによってコスト削減を進めた。結果として3期目以降は黒字化。現在の営業利益率は20%近くを見込む。

 年間売り上げは3期目以降、2年連続で前年比1.3倍を記録。ECを中心にリピーターも増加し、定期購入サービスの利用者は200人を超えた。近年の健康食ブームを背景に、高タンパク低カロリーな練り物への注目が集まっていることが業績につながっている。

 ただ、林田さんは急成長を目指しているわけではない。「無理な規模拡大は目指していません。長く続くことを一番大切にしたい」と話す。良いものづくりを続けるためには、自分たちに合った規模を見極めることが重要だと考えている。

休業中に試作品の製造にも挑戦した(画像:吉開のかまぼこ提供)

事業の価値は「誰が見るかで変わる」

 継承者探しを経て、林田さんは強く感じることがあるという。

 「その事業にどれだけの価値があるかは、誰が見るかで感じ方が全く異なります。誰にも相談せずに廃業手続きをしてしまうのは非常にもったいないと思います」

 実際に吉開のかまぼこも当初、食品業界からは相手にされなかった。その技術や歴史に価値を見いだしたのは、食品とは直接の関係がないシステム会社だった。

 「まずは後継ぎを探したいと発信することで、そこに集まってくる人の誰かがその可能性を開いてくれるかもしれない。誰かに相談する、情報をオープンにすることがすごく重要だと思っています」

 自身と同じく、事業承継に関心を抱く若い世代にもこう訴える。

 「私は特別な能力を持っていたわけではありません。勉強ができたわけでもないし、資格があったわけでもない。自分には何もできないと思っている人がいるとしたら、何も持っていない私でもできているので、大丈夫だと伝えたいです」

 事業の未来をつなぐのは、必ずしも経験やスキルだけではない。その価値を信じ、次の世代に手渡したいというひたむきな思いなのかもしれない。

130年続く商品(画像:吉開のかまぼこ提供)
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