デジカメの分野でいう「フルサイズ」とは、一般的な35ミリフィルムで用いられる36×24ミリの画面サイズに近いイメージセンサーの大きさを指す。下位モデルが採用している「APS-Cサイズ」がおよそ24×16ミリであるのに対して、2倍以上も大きな面積となる。ちなみに、英語でフルサイズは「Full-frame」、中国語では「全画幅」と書く。字面に迫力があっていい。
フルサイズにはいくつかの利点があるが、中でも大きなポイントは高感度の画質に優れること。画素数が同じである場合、センサーサイズが大きいほど、1画素あたりの受光面積が大きくなり、より多くの光を取り込めるようになる。十分な光が得られることで、電気的な信号の増幅処理が少なくて済み、その結果として高感度でもノイズの少ない高画質が得られるというわけだ。
もうひとつの大きな利点は、ボケの表現に有利なこと。フルサイズ機とAPS-Cサイズ機を使って同じ画角で撮影する場合、APS-Cサイズ機はセンサーサイズが小さい分だけ、焦点距離を広角側にシフトする必要がある。広角になるほど、ピントが合ったように見える前後の範囲(被写界深度)は広くなり、ボケ量は小さくなる。つまり、同じ画角で撮る場合、APS-Cサイズ機よりもフルサイズ機のほうが背景がよくボケる、ということ。
もちろん、ボケることが必ずしもいいとは限らない。近景から遠景までシャープにピントがあった、ボケの少ない写真を狙うこともあるだろう。被写界深度の浅さは、正確にはメリットというよりは、フルサイズの特長のひとつだ。ただ、ふだんコンパクトデジカメやスマホの写真に見慣れた目で見ると、フルサイズ機によるボケ味のある写真が新鮮に感じられることは確か。ピント合わせた部分の前後がボケることで、メインの被写体のみが際立ち、立体感のある写真が得られるのだ。ボケは、肉眼では見られない写真ならではの効果といってもいい。
さらに、レンズに表記された焦点距離のそのままの画角で撮影できることも、フルサイズのメリットだ。フィルムカメラに慣れ親しんでいる人の中には、レンズの焦点距離を見れば、その画角や距離感、絞り値に応じた被写界深度が体感的につかめる、という人もいるはず。そんな人にとっては、フルサイズのデジタル一眼は使いやすいだろう。
以上のことを聞いて「なんだフルサイズのメリットって、それだけ?」と感じる人がいるかもしれない。確かに、今どきはAPS-Cサイズやそれ以下のセンサーサイズのカメラでも、高感度性能が大きく進化しているので、実用上に不都合はない。ボケに関しても、明るい単焦点レンズを使えば、非フルサイズのカメラでもそれなりにボケ表現は楽しめる。フルサイズの価値とは、あくまで程度の問題だ。
だが、そもそも写真やカメラの趣味とは、そんなちょっとした違いにこだわることが大切なのだと思う。誰でも彼でもに薦めるつもりはないが、「趣味」として写真撮影を楽しむ人なら、フルサイズ機の高感度画質やボケ表現に、決して小さくはない魅力と価値を見出せるはずだ。
フルサイズ機のデメリットは、APS-Cサイズ機に比べると、ボディとレンズが大きくて重く、価格が高いこと。たとえボディだけでは大差がなくても、交換レンズを含めたトータルのシステムでは、重量面と価格面の負担が結構大きくなる。
そんな中、2012年の後半には「大きい、重い、高い」という従来のフルサイズ機の弱点をやや解消した注目すべき一眼レフが登場した。ニコン「D600」(レビュー)とキヤノン「EOS 6D」(レビュー)だ。どちらも自社のフルサイズ機の中では最小・最軽量のボディと、実売20万円を切る価格を実現した。これでもまだ手ごろとはいえないが、それまでのフルサイズ機に比べると比較的求めやすいお値段になっている。
D600は重量や価格のほかに、快適なシャッターフィーリングが見どころのひとつ。画像の精細感では、圧倒的な画素数を誇る上位のフルサイズ機「D800」や「D800E」に及ばないものの、レリーズの作動音と振動はより控えめで、撮影時の心地よさと取り回しのよさで上回る。
EOS 6Dについても、総合性能では上位機「EOS 5D Mark III」に負けているが、よりコンパクトなボディでありながら、上位機にはないWi-Fi機能の標準装備が独自の魅力になっている。個人的にも、Wi-Fiを利用したスマホのライブビューリモコン機能はとても便利に感じた。これまで私は商品撮影の際、カメラとノートPCをケーブルでつなぎ、PCの画面上でライブビューや撮影画像をチェックするという使い方をすることがあった。それがより手軽に、スマホで代用可能になったことがありがたい。
D600とEOS 6Dに共通するのは、フルサイズの入門ユーザーだけでなく、すでにフルサイズ機を所有している中級以上のユーザーにとっても、小型軽量と+αの価値を持った製品であること。細かい不満点はそれぞれのレビューに書いた通りだが、トータルとしては両機とも良くできたカメラだといえる。
20万円弱というボディの実売価格については、個人的には妥当だと考える。ボディの材質や内部のメカを簡素化すれば、さらに価格を下げることも可能かもしれない。あるいはボディは今のままでも、フルサイズ機の普及が進めば、より低価格化できる可能性もなくはない。
だが現状のフルサイズ機は、幅広い一般ユーザーが購入する製品ではなく、写真を趣味にする限られた人に向けたもの。前述したように、APS-C機に比べて実用上で決定的な差があるわけではない。しかし、APS-C機よりもクラスは上で、やや高級な「憧れのカメラ」としての存在感が必要だ。そのためには、それなりに高品位な外装を備えた上で、安価でも超高価でもなく、ちょっと頑張れば手が届く「やや高め」くらいの価格が今のところは適切だと思う。
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