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アフリカで四輪駆動車を使う理由山形豪・自然写真撮影紀

» 2014年11月26日 18時37分 公開
[山形豪,ITmedia]

 アフリカのフィールドは悪路が多い。インフラ整備の進んでいない発展途上国では当たり前のことだが、人の少ない、あるいはまったくいない自然写真のフィールドには、時に“悪路”という言葉の定義自体を塗り替えてしまうくらいに凄まじい道がある。そのような場所で活動するには、四輪駆動車が不可欠だ。一般的にサファリで使われるのはトヨタのランドクルーザーとハイラックス、そしてランドローバー・ディフェンダーの3車種だ。過酷なフィールドでは、車高や走破性、ボディ剛性など、あらゆる面でオフロードでの使用を前提に作られている車でなければならないのだ。俗になんちゃって四駆と呼ばれるSUVの類は、乗り心地はよいが、フィールドでの実用性は低いし、ハードな環境での使用を想定した作りになっていないので、問題が起きやすい。

山形豪・自然写真撮影紀 ボツワナ、マシャトゥ動物保護区で使われているサファリ仕様のトヨタ・ランドクルーザー。D800、AF-S 17-35mm F2.8D、1/800秒、F13、ISO640

 普段私がアフリカでの撮影で四駆をほとんど使わないのは、以前書いた通り。その最大の理由は経費だ。レンタカーでフル装備のランドクルーザーでも借りようものなら、それだけで1日2万円くらいは平気でかかってしまう。しかもあれだけ車重があると、燃費も猛烈に悪い。砂の深いカラハリ砂漠の中心部を走る場合、タイヤ空気圧を下げ、四輪駆動を常用せねばならぬため、ディーゼル車でも1リットルあたり4〜5キロメートル程度しか走れない。単に動物の撮影が目的である場合、例えばライオンが撮りたいだけであれば、同じカラハリ砂漠でも、路面が整地されており、セダンでもアクセスできるカラハリ・トランスフロンティアパークを撮影地に選べばよい。それならレンタカー代は1日3000円程度で済むし、燃料だってガソリン1リットルで15キロは走れる。この差はでかい。より長期間フィールドに滞在できたほうが、撮れる写真の数は増えるし、よい場面に出くわす確率も上がる。

 四輪駆動車を使ってアフリカの野生動物を撮影するのには、コスト以外にも大きな問題点がある。それは車高だ。これも以前書いたが、動物写真は相手と同じ目線か、それよりもさらに下から撮るのが理想だ。しかし、四駆はその背の高さ故に、相手を見下ろしてしまうことが多い。以上のような理由から、仮に金銭的余裕ができたとしても、セダンを利用しての撮影をやめることはないだろう。

 しかし、私は単に動物だけを撮りたいわけではなく、風景や自然生態系全体を被写体と捉えている。そしてアフリカには四駆でしかアクセスできない素晴らしい場所が山ほど存在する。例えばナミビア北西部のカオコランドと呼ばれるエリアや、ナミブ砂漠の奥地、ボツワナ中部のセントラルカラハリ動物保護区などがそれだ。アクセスの難しさは、そのまま人の少なさを意味している。1週間以上に渡り、自分以外の人間にまったく出くわさないという状況も稀ではない。真にワイルドなアフリカの大自然の只中に身を置けるのは、私にとってこの上ない幸せであり、誰にも邪魔されずに写真が撮れるのは、最高の贅沢だ。

 これまでで四輪駆動車を使って最も長く撮影を行ったのは、2006年の終わりから2007年初旬にかけての4カ月だ。この時はポンコツのハイラックスを入手し、南アフリカのケープタウンから北上、ナミビアを南北に縦断して北端まで行った後、アンゴラとの国境沿いに東へ向かい、カプリビ回廊と呼ばれる地域から南下、ボツワナを突っ切り南アフリカへと戻った。総走行距離は2万キロ強の旅となり、途中さまざまな車のトラブルに見舞われたが、おかげでいろいろな体験ができたし、多くの人々との素晴らしい出会いがあった。中には今でも交友関係の続いている人もいる。そして、それまで訪れることのできなかった辺境地を多く周り、撮影結果も非常に満足のいくものとなった。

山形豪・自然写真撮影紀 2006年の暮れ、ナミビア北部のファン・セイルズ・パスをトヨタ・ハイラックスで下る筆者。これでも一応“道”である。D200、AF-S DX 18-70mm F3.5-4.5G、1/250秒、F13、ISO160、インターバルタイマーで自撮り

 あの旅で一番面白かったのはナミビア北西部だった。現地事情に詳しい友人の写真家から、細かなルートのGPSデータをもらい、通常の道路地図にはまったく載っていないエリアを2週間以上かけて走り回った。滅多に人の立ち入らないナミブ砂漠の北部や、カオコランドの深部にも滞在した。途中、ファン・セイルズ・パスと名付けられたもの凄いがれ場を下り、ナミビア北端を流れるクネネ川を目指した。ひたすら砂漠と岩だらけの乾燥地帯を走り続けた末に辿り着いたクネネ川の流れは今でも目に焼き付いている。

山形豪・自然写真撮影紀 ナミビアの北端、アンゴラとの国境でもあるクネネ川。D200、AF-S 17-35mm F2.8D、1/350秒、F8、ISO160

 人里離れた土地で長期のフィールドワークを行うには、車だけあればよいというわけではなく、さまざまな準備が必要だ。撮影機材やキャンプ道具はもちろんのこと、3週間分の水と食料、20リットルの燃料缶6本、スペアタイア2本、工具、パンク修理キット、タイヤ用コンプレッサー、牽引ロープなどを積み込んでいった。これらの資材を買いそろえるだけでもかなりの出費となったが、備えあれば憂いなしだ。実際、念のためと思って持って行った道具も、消火器以外はすべて使うこととなった。

山形豪・自然写真撮影紀 燃料や水を満載したトヨタ・ハイラックスの荷物室。D200、AF-S DX 18-70mm F3.5-4.5G、1/200秒、F5.6、ISO125

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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