アフリカで野生動物を撮影する場合、その大半は国立公園や動物保護区で行う。いかにアフリカが広く、自然が豊かとはいえ、空港で飛行機を降りた瞬間に、辺り一面野生の王国などという状況は存在しないのだ。普段私が撮影旅行の拠点としている南アフリカの最大都市ヨハネスブルグは、高層ビルの立ち並ぶ大都市である。ゾウやライオンを撮るには、そこから最低でも車で数時間は走らねばならない。
動物保護区というと、「サファリパークのような場所ですか?」という質問がよく返ってくるが、アフリカの保護区は断じて動物園の類ではない。南アフリカの隣国、ボツワナを例にみてみよう。国土の中心部に、セントラル・カラハリという動物保護区がある。ここは自然保護を目的に仕切られたエリアとしてはアフリカでも最大級で、その総面積は約5万3千平方キロメートルにも及ぶ。日本でいうと九州と四国を足したのと同じくらいの大きさだ。この想像を絶するほど広大な土地では、人の居住や経済活動が一切禁じられており、地平線の彼方まで無人のサバンナが続く中、多くの動物たちが暮らしているのだ。
ありのままの自然を極力残すため、セントラル・カラハリでは、観光客向けのインフラ整備もほとんど行われていない。地図を見ると一応道路はあるが、実際はただのわだちであって、砂や泥が深いため、大型四輪駆動車でなければ走れない。当然保護区内にはガソリンスタンドや売店の類も一切存在しない。宿泊施設に至っては、キャンプサイトとは名ばかりの更地があるだけだ。従って、ここを訪れるにはかなり入念な準備を要する。車さえあればよいという簡単なものではなく、燃料、水、食料その他、必要な物資はすべて持っていかねばならないのだ。
これが南アフリカだと、国立公園や自然保護区の道路は綺麗に整地され(場合によっては舗装もされている)、宿泊設備やレストラン、ガソリンスタンド、売店などを完備する“レストキャンプ”という複合施設まで存在する。そのため保護区の大半は、軽乗用車でも気軽に訪れることが可能で安上がりなのだが、一方で人の多さを煩わしく感じることもあり、一長一短といったところだ。このように一言でアフリカの保護区といっても、国によって管理の方針は違い、撮影環境にも差がある。もちろん、単純に写真を撮ることだけが目的であれば、南アフリカのほうが活動しやすいことは明白だが、誰にも邪魔されずに大自然を満喫したいのであれば、ボツワナに軍配が上がる。
11月初旬、私は日本から知人数名を引き連れてセントラル・カラハリを訪れた。今回は、南アフリカ人の友人に誘われての旅だった。彼の所有する2台のトヨタ・ランドクルーザーに分乗、1台を友人が、もう1台を私が運転した。南アフリカのラステンバーグという町からボツワナに入り、キャンプをしながら5日かけて保護区を西から東へ横断、南アフリカへ戻るという約2000キロのルートをたどった。
個人的にこの旅で一番楽しみにしていたのは、ライオンとの出会いだった。というのも、これまでさまざまな場所で多くのライオンを見てきたが、ここのオスたちは、どこよりも大きく美しいのだ。しかもキャンプには柵がないため、夜な夜なライオンが近くをうろついたりする。今回も3日目の明け方に、テントから10メートルくらいの至近距離で、ライオンが咆哮をあげた。テントの布がビリビリ震えるくらいの凄まじい大音量だった。日の出後、キャンプの近くでその声の主を見つけると、体重が250キロ近くあると思われる特大級のライオンで、正に「百獣の王」と呼ぶにふさわしい姿だった。単に写真を撮るだけでなく、アフリカの自然が持つ力強さや美しさを肌で感じるには、セントラル・カラハリのように広大で、人のほとんどいない場所は最高なのだ。
先日アストロアーツから「デジタルカメラ 超・動物撮影術」というムック本が発売となった。ペットから野生動物まで、さまざまな動物の撮り方を解説した本となっており、私もアフリカでの作例を用いて、いろいろなシチュエーションでの撮影方法や、機材に関するページを担当している。動物写真に興味をお持ちの方に是非ご覧いただきたい。
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