Aさんのデスクトップについているキーボード、Realforceはテンキーのないタイプだ。彼なりのこだわりなのか、新しいWirelessのBluetoothにもテンキーがない。
Aさんの説明を聞きつつ、そのキーボードを触っていると、数年前に始めてワイヤレスキーボードが出たときのことを思い出した。とはいえわたしは、Wirelessキーボードにほとんど関心を抱かなかった。というのも、画面から離れてキーボードを使う、という状況が想像できなかったし、当時のディスプレイサイズはまだ小さく、デスクスペースにも余裕があった。だから、キーボードをワイヤレスにするメリットが思い付かなかったのだ。
Aさん Bluetooth接続だと、ワイヤレスキーボードやマウスを使うときに必要なドングルもいらないし、便利だよ。
わたし どんぐり?
Aさん ドングルだよ!
ああ、ワイヤレスキーボードやマウスを使うときにUSBコネクタに挿す、USBメモリみたいなやつのことね。一般的には、インタフェースを変換するための小さな装置のことを「ドングル」というらしい。
こうして見てみると、ワイヤレスもなかなか使いやすそうである。わたしのPCはデスクトップ型なので、普段はあまりその恩恵を感じないかもしれないが、デスクが書類でいっぱいになった時に、キーボードをヒョイっとどかせるのなんて、魅力的かも。今使っている Realforce が壊れたら(いつになることか……)、わたしもワイヤレスにしてみようかしら。
さて、朝イチの時間帯とはいえ、そろそろ仕事に戻らなければと、手にしていたワイヤレスキーボードをAさんに返し自席に戻ろうとするわたし。すると背後から、Aさんの独り言が聞こえてきた。
Aさん さて、仕事するためは……認識作業が必要だな。
ああ、そうか。
ワイヤレスキーボードを使うには、ノートPC側に Bluetooth機器としてキーボードを認識させなければならない。ちょっと面倒だな……。そして、あることに気が付いた。
もしこの Bluetooth キーボードを普通のデスクトップPCに取り付けていたなら、PCが故障してOSを再インストールする時、そのキーボードが使えないってことだ。再インストール用に別のキーボード、PS/2 か USB で接続するキーボードを用意しておかないと、インストール時の名前や組織の入力も、プロダクトキーの入力も、ドメインへの参加もできない。なんとまあ、そんなオチがあるなんて、と考えてしまった。世の中は便利になっているけれど、その分、トラブルがあったときにちゃんと対応できるのかってことも考えておかなければ。“缶詰の中の缶切り”のような事態になってしまう。
普通のワイヤレスキーボードやマウスだって、トラブルが起こる可能性がある。もし(まずあり得ないけど)会社のPCのキーボードがすべてワイヤレスに切り替わったら、混信や誤操作なんてこともあるかも。こっちのPCにつなげたキーボードを操作したら、隣のPCも同じように操作されちゃったりして。もちろん、チャンネルを変えられるようにはなっているけれど、最近のワイヤレス機器は「10メートル離れても大丈夫」みたいなことが書いてあるからなあ……。オフィスで10メートル四方といったら、それなりの広さ。範囲にいったい何台のPCがあるだろう。その中の2台や3台、同じチャンネルになっているという可能性は十分にあるぞ。
……やっぱり、自分のキーボードをワイヤレスにするのはやめておこう。
社内でのトラブルシューティングはこういったところまで視野に入れなければならない。便利さに気を取られて足元をすくわれないように気を付けなくっちゃ。わたしたちはPCクリニック的存在なのだから。
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