【第4回】組織を強くする人材活用術中堅・中小企業 逆境時の経営力(3/3 ページ)

» 2011年06月17日 08時30分 公開
[倉澤一成,日本総合研究所]
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社内で浸透させる仕掛け作り(経営理念共有、成長機会提供、人材育成支援)

 会社の方向性に共感し、共に会社の未来を作りたいという思いで入ってきた人材。社員で作り上げた経営理念を実現するため頑張りたいと考えている人材。これらの人材が活躍できる仕組みを作ることも企業として欠かせない。

(1)経営理念共有の仕掛け

 まずは、人材の活躍の場を作るため、経営理念を浸透させなければならない。社長以下、経営陣、管理職など、職場のリーダーが範を示して、一貫性のある行動をとっていくことが重要である。経営理念の浸透は、企業文化の改革という意味もあるので、過渡期には不満を持つ者も出るだろう。どうやったら企業が変われるのかという過程を丁寧に説明することで、ある程度の不満(不安)は解消されるだろう。

 経営理念を実現するために、会社の方向性や方針を打ち出し、事業機会を模索していく。経営理念との整合性を保ちながら、どういう事業展開にするのか、顧客に対して何を提供していくのか、どれだけ利益を稼ぐのかという目標を設定し、組織や仕事の仕組みを具体化していく。さらに、経営理念に基づく、仕事に対するアプローチの仕方、行動指針のようなものも組み込んでいくことで、理念共有が強化される。

(2)成長機会提供の仕掛け

 具体化された組織や仕事に対して、新たに採用した人材や、社内の人材を積極的に配置していく。ここを成長機会の場としてとらえて、リーダー候補者に思い切って任せる。

 新規事業などを進める組織の場合、組織の位置付けや規模などの設計が難しい。いきなり大規模な組織にして展開することは、選任された本人にとっても過度な負担となり、事業リスクも大きいので、まずは小規模で実験的に進めるのが好ましい。既存の営業部門の中に位置付けるか、経営企画の下に置くかは、一考を要するべきだが、あまり事業部門に寄せず小規模な組織で、ある程度自由に活動させるべきである。その際の注意点は、適切な支援をしていくこと、孤立した部隊としないこと、持続的な組織としての存続基盤を整備することが挙げられる。

 新たな機会を意気に感じながら、思う存分力を発揮できるような環境を提供することが大切である。そのためにも、影響力のあるリーダーや経営陣の管轄下の組織として、権限を持って進められるようにしておく。これがモチベーションを維持するために重要な仕掛けとなる。ただし、会社の方向性や期待値など、事業展開との整合性は確保しておきたい。はじめにこの点を欠くと後で評価ができなくなるので注意したい。

 特別な組織になるため、社内のほかの組織との連絡も保っておきたい。どこで、誰が、どういう仕事をしているのか、ある程度は皆が分かる組織規模だとしても、油断をすると組織の壁ができる。そうなると、ただでさえ少ない資源が、さらに生かせなくなる。そうならないように、社内の他組織との交流を図れるような場を設けておく必要はある。

 そして、組織としての持続性を持たせ、事業展開が個人のスキルやノウハウに過度に依存しないようにする。新事業を軌道に乗せるためにも、スキルやノウハウを共有し、社内フォロワーを作っていく必要がある。まずは組織のミッション、各個人の役割を明確にしておく。事業を進める過程で経験値を蓄え、役割遂行のポイントなどを蓄積する。これを共有して組織的な拡大のための基盤とする。

(3)人材育成支援の仕掛け

 リーダー候補として選任した人材がさらに飛躍を遂げるため、機会を提供した上で、定期的に評価し、改善すべき点はフィードバックしていくことが重要となる。育成すべき点を本人にも気付かせながら、適切な指導をし、成長のために何をするべきか、必要に応じて提供していく。

 そのためには、組織の役割や本人に対する期待値などをあらかじめ設定しておき、一定期間後に成果を評価する。事業面からの評価はもちろん行うべきである。事業の進展度合いはどうか、当初の計画とのギャップはどこにあって、どうやって改善していくべきかなどについて、適切に指導しながら、軌道修正していくことが、事業の成功確率を高める。

 一方で、リーダーとしての役割遂行度合いを評価し、問題点を聞き、適切な支援をしていくことも重要である。事業展開を進める過程で、どういう意図で、どういう行動をとったのかを聞きながら、改善点などをフィードバックし、必要な教育機会を提供する。学習効果としては、本人が具体的な改善点に気付き、改善しようと思うことが重要なので、コーチングなどの手法を用いながら、成長を支援していくことが効果的である。

 なお、こういう場合の処遇について、事業成果はある程度考慮するにしても、リーダーとしての役割遂行はどうかという点を重視するべきである。業績が上がらないと、さすがに精神的にもきつい状況になる。簡単に結果の出る仕事でない場合もあるので、会社としての期待値を伝えながら、長い目で見ていくことで、モチベーションを維持していく。

社員の成長機会を

 経営理念の作成から、組織へ浸透させるまでには、通常長い時間がかかり、チェンジマネジメントという変革プロセスが必要とされる状況でもある。経営資源が限られる中堅・中小企業にとって、このタイミングは好機であり、変革を進める同志を集めていくことで、変革を成功させ、新たな事業展開を成功させるという一大転機になり得る。そのためには、事業機会とともに本人の成長機会を提供していく仕掛け作りが欠かせない。

 以上で述べたポイントに留意し、中堅・中小企業は必要な人材を獲得し、事業機会をとらえていってほしい。


プロフィール 倉澤一成(くらさわ・かずしげ)

株式会社日本総合研究所 総合研究部門

社会・産業デザイン事業部 グローバルマネジメントグループ マネジャー

外資系コンピューター会社で人事業務に従事、外資系人事コンサルティング会社を経て、現在、日本総合研究所にて、組織・人材を中心としたコンサルティングに従事。


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