SDNに本格参入した富士通の思惑Weekly Memo

富士通が先週、SDN関連事業への本格参入を表明したことで、国内でもSDN化の動きに一層拍車がかかりそうだ。

» 2013年05月13日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

SDNに基づく新アーキテクチャを確立

 富士通が5月8日、SDN(Software Defined Network)関連事業へ本格参入すると発表した。SDNの考え方に基づいた新たなアーキテクチャ「FUJITSU Intelligent Networking and Computing Architecture」を確立。新アーキテクチャに基づく第1弾の製品群も提供開始した。

 同社によると、新アーキテクチャは、データセンター、広域ネットワーク、スマートデバイスといった特性の異なる3つのICT領域を、ソフトウェアによってインテリジェントで柔軟な最適制御を実現するもので、SDNの考え方をネットワークだけでなくICT領域全体に拡張していくものだとしている。

 特性の異なる3つのICT領域でリソースを仮想化し、その仮想化したリソースを「仮想インフラ層」と「分散サービス基盤層」の2つの階層で管理・制御することで、最適なサービスレベルを実現。これによって、エンドユーザーの体感品質(Quality of Experience)を向上することが最大の目的だという。

会見に臨む富士通の大槻次郎 執行役員常務サービスプラットフォーム部門ネットワークビジネスグループ長

 同社の大槻次郎 執行役員常務 サービスプラットフォーム部門 ネットワークビジネスグループ長は発表会見で、「当社では今後、この新アーキテクチャの考え方に基づいて、一貫性のあるソリューションサービスを提供していく」と力を込めた。

 同日には、新アーキテクチャに基づく第1弾の製品群として、「サーバ・ストレージ・ネットワークリソースの一元管理・制御ソフトウェア」「ネットワーク仮想化対応スイッチ」「仮想アプライアンスプラットフォーム」についての新規提供および機能強化も発表された。

 さらに5月10日には、新アーキテクチャに基づいて仮想環境およびクラウド環境をスピーディーかつ簡単に導入・運用できる垂直統合型システムも発表。同社のSDN関連事業への力の入れようをうかがわせた。

 これらの製品群の詳細な内容については、既に報道されているので関連記事などをご覧いただくとして、ここでは今後激戦区になりそうなSDN市場の動きと富士通の思惑にフォーカスしてみたい。

富士通がOpenFlowを採用しない理由

 SDN市場については、IDC Japanが昨年末に発表した「2013年 国内IT市場予測」の中で、「2013年はSDN市場元年になる」とし、今後の市場の動きを次のように予測している。

 「2013年はOpenFlowをはじめとするSDNに関する技術の成熟化が進み、ベンダーからSDNに関連する製品やソリューションが多く提供され、市場の土台がつくられる。そして2014年からSDN市場は本格的に立ち上がり、急速に拡大していくことになる。SDNに関連するハードウェア、ソフトウェア、サービスで形成されるエコシステムは、2016年において300億円以上の市場規模になる」

 こうした予測をなぞるように、今年に入ってからSDNの発祥地である米国の有力なICTベンダーがこぞって、SDN関連の製品やサービスを投入。日本のベンダーではNECやNTTコミュニケーションズなどが早くから米国のSDN関連プロジェクトに参加し、この分野に注力する姿勢を見せてきた。

 ちなみにSDN関連プロジェクトもここにきて、サービス事業者などのユーザー企業が中心となってSDNの代表的な要素技術であるOpenFlowの標準化などを進める「オープン・ネットワーキング・ファウンデーション(ONF)」や、オープンソースをベースにしてSDN関連製品の開発を進めるネットワーク機器やソフトウェアのベンダーを中心とした「OpenDaylightプロジェクト」、SDNの考え方に基づくオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアであるOpenStackの開発・管理を行う「OpenStackファウンデーション」など、複数の推進団体が活動を活発化させている。

 こうした群雄割拠の背景には、それぞれの立場による主導権争いの思惑も絡んでいるようだが、上記の3つの団体名を見ても分かるように「オープン」であることがSDN推進の絶対条件だ。今後の状況によっては、かつてのUNIXのように枝分かれする可能性もあるが、今のところSDNについてはこれらのプロジェクトが連携して有機的なエコシステムを形成する気運が盛り上がりつつあるようにも見える。このエコシステムが動き出せば、SDNの普及は一気に進む可能性がある。

 さて話を富士通に戻すと、上記のようなSDN市場の動きの中で、これまで同社の名前を耳にすることはなかった。が、どうやらそれは筆者の認識不足で、同社は上記のようなプロジェクトにも積極的に参加しているという。

 ただ、今回同社が第1弾として投入した製品群の中には、OpenFlowを採用した製品がなかった。この点について同社の堀洋一 常務理事 プラットフォームソフトウェア事業本部長は、「当社が打ち出した新アーキテクチャに基づいて、適材適所の技術を採用したのが今回の製品。今後、OpenFlowも必要があれば採用を検討する。まずは技術ありきではなく、新アーキテクチャの目的を実現するところから入った」とのこと。ものづくりにこだわる同社らしい取り組み姿勢だが、OpenFlowに先行して注力するHPやNECなどと異なるアプローチをとったとも見て取れる。

 とはいえ、SDNが3〜5年後、ネットワーク市場でどれくらいの割合を占めるようになるかと問うたところ、堀氏は「ネットワーク市場そのものがSDNになる。さらにはICT領域全体がSoftware Definedに基づく形になる。新アーキテクチャはまさにそれを目指したものだ」と答えた。この見解は競合するHPやNECなども全く同じ。富士通の本格参入で国内のICT市場もSoftware Defined化に向けて、これから激しい戦いが繰り広げられそうだ。

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