SaaS利用に求められる「ユーザーの覚悟」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2014年11月10日 17時00分 公開
[松岡功,ITmedia]
前のページへ 1|2       

システムの複雑化が招くSaaSのロックイン

 では、国内のパブリッククラウド市場におけるSaaSの利用状況はどうなのか。特にアプリケーション分野ごとのSaaS化の利用実態について取材したところ、この分野に詳しいガートナージャパンの志賀嘉津士リサーチバイスプレジデントが貴重な独自調査データを提供してくれたので紹介したい。

 それによると、企業におけるアプリケーション分野ごとのSaaS普及率は、電子メールが21.1%、グループウェアが14.1%、人事・給与系が8.4%、Eラーニングが7.2%、財務・会計系が5.8%、営業支援が5.2%といった水準であった。

 なお、この調査では営業支援と区別されているCRM(4.5%)、財務・会計と区別されているERP(2.1%)、ビジネスインテリジェンス(BI)などの分析ツール(2.1%)、マーケティング支援(1.2%)といった分野は、まだSaaS普及率が5%以下にとどまっている。

photo 電子メールとグループウェアを合わせた企業規模別SaaS普及率(出典:ガートナージャパンITデマンド・リサーチ2014年5月調査)

 右図は、電子メールとグループウェアを合わせたSaaS普及率を、従業員数2000人未満とそれ以上に分けた企業規模別に、ここ3年間の推移を示したものである。いずれの企業規模でも2014年の普及率は20%を超えた。これが2015年には、2000人未満が24.4%に、2000人以上では36.8%まで普及率が高まるという。つまり、2000人以上の企業の普及率が一気に跳ね上がると予測している。

 この点について、ガートナーの志賀氏は「企業規模にかかわらず、これまでSaaS化が最も進んできた電子メールとグループウェアの普及率が20%を超えたことで、SaaSの利用がアーリーアダプタ層からメインストリーム層へ本格的に移行し始めたのが明確になった。2015年はSaaS市場がダイナミックに動き出し、SaaS同士やハイブリッドクラウドと連携した利用形態も大きく広がっていくだろう」との見解を示した。

 ただ、ユーザーの観点からすると、SaaS同士やハイブリッドクラウドと連携した利用形態が広がっていけば、それにともなう利便性とトレードオフする形で新たな課題も浮かび上がりそうだ。それは「アプリケーションごとのSaaSとして導入したサービスが、他のシステムと複雑に絡み合う形になると、後にもっとコストパフォーマンスのよいサービスに乗り換えようとしても難しくなる。ユーザーがSaaSを自ら選択できる状況を維持したいのであれば、他のシステムとの連携をあまり複雑にしないように注意するべきだ」(志賀氏)という点だ。

 これまでSaaSは「いつでも止められる」ことが売り文句の1つになっていた。ただ、どうやら事はそう簡単ではなくなってきそうだ。システム全体が複雑になれば、SaaSは自ずとロックインが進む。システム全体の利便性とSaaS単体の移行性をどう考えるか。ユーザー側にもしっかりとした判断と覚悟が問われそうだ。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ