多額の初期投資が必要なく、素早く導入でき、運用の手間を軽減できる――。そんなクラウドは、私たちのビジネスにどのような価値をもたらすのか。あらためて考えてみよう。
カップめんを待つ間に、電車の待ち時間に、歯磨きしている間に“いまさら聞けない”ITトレンドが分かっちゃう! 今さら聞けないITの最新トレンドやビジネス戦略を、体系的に整理して分かりやすく解説する連載です。「この用語、案外、分かっているようで分かっていないかも」「IT用語を現場の社員にもっと分かりやすく説明できるようになりたい」――。情シスの皆さんのこんな課題を解決します。
クラウドコンピューティングの登場により、私たちの日常やビジネスにおけるITの価値は大きく変化しつつあります。
クラウドは、システム資源の価格破壊をもたらしました。例えば、世界最大のクラウドサービス事業者であるAmazon Web Services(AWS)は、2006年のサービス開始以来、約50回、一貫して値下げを繰り返しています。これに追従するように、MicrosoftやGoogleも値下げを繰り返し、しれつな価格競争を展開しています。コンピュータ機器の販売ビジネスでは、到底まねのできない価格競争といえるでしょう。また、システム資源の調達や運用を従量課金型のサービスとして提供することで、ユーザー企業が必要最小限のシステム資源をわずかな運用管理負担で利用できるようになったのです。
かつて、情報システムを構築して使用するためには、システム資源を購入し、運用管理の専門家を雇わなくてはなりませんでした。それなりの初期投資リスクを覚悟して取り組まなければならなかったのです。しかし、クラウドの登場により、この常識は覆されました。そのため、これまでITの利用に二の足を踏んでいた業務領域や新規事業への適用が拡大しつつあります。
また、スタートアップ企業にとっては、「失敗のコスト」が大きく低減し、容易にチャレンジできる環境が与えられるようになりました。新規事業の成功確率は、1千回に数回といわれるほどハードルの高いものです。そのため、初期投資リスクが大きな時代には、新規事業へのチャレンジは慎重にならざるを得ず、また、従来は膨大なスタートアップ資金を調達しなければなりませんでした。しかし、クラウドの普及により、少ない初期投資コストでさまざまなアイデアを試してみることができるようになったのです。
このように「失敗のコスト」が、低減することでチャレンジが促され、成功確率は変わらないとしても、チャレンジの回数が増えることで成功の回数は増えつつあります。その結果、イノベーションは促進され、ITが適用される業務領域を拡大しています。また、SaaSやPaaSの普及により、高度なシステム機能を1からつくり込まなくてもクラウドサービスとして利用し、これを組み合わせることで、新たなサービスをつくれる時代になりました。これにより、システム開発や運用管理といったITの難しさは隠蔽され、IT利用者の裾野をこれまでになく拡大しつつあります。
これに伴い、ビジネスや日常におけるITの価値は向上していきます。同時に、ITがその存在自身を隠してしまったかのように私たちの周囲や環境に溶け込む「ITのアンビエント化」をもたらしつつあるといえるでしょう。
このようにITの価値は、これまでにも増して大きくなっていきます。一方で、このような価値を生み出すことを目的とせず、工数提供という手段を価値と捉えるビジネスは、ITの「サービス化」とそれに伴う「難しさの隠蔽」によって、ビジネスチャンスを失っていくということを覚悟しなければならないでしょう。
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤリティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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