BPMの提唱者たちは、BPMをこれまでのものより優れ一味違ったものとして「喧伝(けんでん)」している。以下に、彼らが「うたい文句」として掲げる主な特性を列挙するとともに、それぞれに対するわれわれ筆者の賛否両論のコメントを付記した。
「BPMは、過去のどのプロセス改善手段よりも優れている」
確かに、BPMは多くの組織におけるプロセス改善の可視化を促進した。また、多くの学者とコンサルタントの視点をプロセスに戻し、プロセスに特化したいくつかの機関が創設された(例えば、BPMIやBPMグループ)。
これ自体は好ましいことであるに違いない。標準規格とBPM全般に関する議論により、市場における認知度と成熟度が上昇し続けるからだ。しかし、例えばBPRのような、過去の経験から得られる教訓も考慮に入れなければならない。
重要なのは、BPMは、組織と経営者の覚悟以上の効果を発揮しないということだ。
「新しく、より優れたテクノロジである」
現時点では、この主張を立証する、完全に自動化された全社BPM展開の実績があまりにも少な過ぎる。
われわれの経験では、BPM実施初期の重点は、テクノロジに置くべきではない。初期作業の照準は、効率と有効性の向上という目標に照らした既存プロセスの評価に当てるべきである(プロセス目標設定の重要性については、別稿「プロセスアーキテクチャ、その発進、および革新」で詳述する)。プロセス改善計画には自動化案が含められるかもしれない(それが適切と認められる場合には)が、プロセス改善のかなりの部分は、テクノロジを使用しなくても達成できる。
人々はつい「付加機能」の見栄えに浮かれて、組織がテクノロジにさせなければならないことよりも、テクノロジが何をできるかに目を奪われるものだ。させなければならないことよりも、テクノロジが何をできるかに目を奪われるものだ。
「BPMを支援する、しっかりとした方法論がある」
BPMに部分的に対応する方法論はあるが、BPMソリューションを全面的に支援できる方法論は、ほとんどない。
気を付けよう。方法論やフレームワークは救世主にもなれば単なるマイルストーンにしかならないこともある。問題は使い方だ。
「BPMはシンプルである(もっといえば、シンプルにされ過ぎていることが多い)」
BPMは、決してシンプルではない。1つのBPMを実行するにも多くのコンポーネントとエレメントが必要だ。
組織内のプロセスに関するすべての問題を、BPMで一気に片付ける必要はない。1つのプロジェクトからささやかに始めよう。組織の成熟度の高まりとともに、BPMも拡張できる。
「BPMの実施には外部専門家の支援を必要とする」
これは、組織の成熟度および組織のスキルレベルと経験に大きく依存する。
組織の成熟レベルやスキルレベルが十分でない場合、外部コンサルタントがコーチングやコンサルティングの役割を担い、力になってくれることは確かだ。内部プロジェクトマネージャでは、プロジェクトに集中できないこともある。一定の経験を持つ外部BPMプロジェクトマネージャであれば、プロジェクトに専念することができよう。
BPMはシンプルなコンセプトではなく、容易に実行できるものでもない。極めて複雑で難解だ。
テクノロジの導入は多くの企業にとって有用な支援になる可能性を持つが、BPMの成功に不可欠なことではない。テクノロジ導入以前にプロセスを的確に把握することが、はるかに重要なのだ。
通常、氷山は全体の10%しか水面上に姿を見せない。多くの場合、BPMについても同様のことがいえる。人間と組織の目に映るのは、水面上の姿でしかない。
面白いのは、見る者の感性によって水面上に見えるものが異なるということだ。例えば、ベンダには水面上にテクノロジが見える。プロセスアナリストにはプロセス、人事部門にはチェンジマネジメント、IT部門にはテクノロジの運用、ビジネスマネージャには短期的利益(手っ取り早い収穫)やコスト低減額やシンプルな改善成果尺度、といった具合だ。さらにプロジェクトマネージャであれば、短期間内のプロジェクトタスクの完了と成果達成を見ることになるだろう。
人間が見ているのは、完成された画像やプロセスモデルとしての「感性」のコンポーネントでしかないことが多い。しかし、それらのプロセスの実行とビジネス・ベネフィット達成への取組みの中にこそ、「現実」の姿があるのだ。いかに優れた戦略でも、うまく実行されなければ役立たない。
厄介なことに、BPMの実施には実に多面的なアクティビティを伴う。水面下に潜む「現実」を示したのが、図2である。
BPMの実施に際しては、関連するすべての「現実」に対処しなければプロジェクトのリスクが高まる。この「現実」については、対処だけではなく可視化が必要である。たとえ船を氷山の一面に接近させてぶつからなかったとしても、ほかの面で同じことをすれば沈没するかもしれない。
したがって、BPMへの取り組みでは、問題点とアクティビティの可視化が重要な部分になる。
いかなるBPMの実施においても、最も重要なコンポーネントとなるのが、組織変更と、それが関連する人間(社員)に与えるインパクトのマネジメントである。すでに述べたように、BPMの実施と成功の鍵は、塹壕(ざんごう)の中の人間に握られているのだ。
実施には、社員と、その社員による職務の遂行が欠かせない。また、関係者間の交流、組織マネジメントのカルチャーと「プロセス・ファクトリ」としての側面における全体的アプローチが非常に重要になる(筆者注:ところで、「プロセス・ファクトリ」とは何か。ここでは、大量のスループットを処理するバックオフィス業務や多数のハンドオフポイントを持つ組織を指す)。
社員を塹壕に引き込むための決め手は、ラインマネージャのリーダーシップである。まずラインマネージャが、率先して塹壕に入らなければならない。プロジェクトマネージャやプロジェクトチームには、自己裁量でほかの人間を巻き込むことはできない。
BPMプロジェクトを成功させるか、あるいはその逆の結果を招くかを決定付けるのは、人間である。世の中で最も効果的かつ効率的な、新しい、あるいはリデザインされたプロセスを手にすることはできよう。しかし、もしそれらを活用するよう、関係者にうまく、あるいはまったく納得させられなければ、何も持たないのと同然だ。
社員を、開発の過程に不可欠の存在として位置付けなければならない。そして、彼らの相談に応じ、意見に耳を傾けるとともに、定期的な訓練と意思疎通の場を設けなければならない。プロセスそのものに加え、新しいプロセスが必要な理由、および既存プロセスを変更しなければならない理由──これらを彼らが理解していなければ、彼らにプロセスのオーナーシップと職責を担うよう求めることなどできるだろうか。
社員には、自分に期待されていること、および新しい組織構造とプロセスへの適応の仕方を明確に認識してもらわなければならない。また、そのパフォーマンス評価方式は、彼らとの協議と合意を通じて設定される必要がある。
改革における経営者の役割とは何であろうか? マネージャが組織とプロセス・ファクトリの運用を管理しなければならないことは、自明のことのようにみえる。しかし、それはたいていのマネージャが現在の職位で現実に行っていることではない。われわれの経験からすれば、ごくまれな例外を除き、今日のマネージャは、困難な局面への対処と、原因の探究ではなく対症療法に、ほとんどの時間を費やしている。いわゆる「危機管理」と称される事柄だ。
一般論として、これはマネージャにとって決定的に重要な事柄ではない。活用すべきツールを駆使して大きな成果を上げるために善意で懸命に働く個人、というのが彼らの本来の姿である。BPMプロジェクトでは、経営者と連携し、経営者がビジネスのマネジメントに必要とする情報を確認するのに、膨大な力を注がなければならない。
そのためには、ビジネスがどのように運用されているのか、どのような報告が必要なのかについて、マネージャに深く完ぺきに理解させておく必要がある。また、マネージャたちが受動的マネジメントから先行的マネジメントへ、さらには予知的マネジメントへと移行できるよう、情報をタイムリーに伝達しなければならない。これこそが、組織に長期的・継続的な生産性向上をもたらす、成熟したマネジメントに至る道なのだ。
プロジェクトのマネジメントコンポーネントを変更するのは社員である。それらは、組織カルチャーの問題に取り組み変革するのに必要なものだ。その変革が目指す新しいマネジメント行動様式が、やがては社員の行動規範となる。
カルチャーの変革を促進するためには、インセンティブ制度と、提供されるマネジメント情報、ひいては対象プロセスの目標と組織戦略との整合性が求められる。インセンティブや目標とパフォーマンス評価の関係は、分かりやすく実際的なものでなくてはならない。
また、有能な社員の突出した成果を正当に評価し、それに見合った報奨を与えるべきである。報奨は金銭に限らない。人事部門では、金銭以外の多様な方法を創意工夫できるであろう。
問題は、いかに効果的かつ納得性のある方法で変革の成果を評価するかということなのだ。
多くの人々が、まだBPMの内容について混乱を打ち消せないでいる。これは驚くに当たらない。BPMに携わる当事者たちの間にも、まだ共通の定義とアプローチに関する合意が存在しないからだ。BPMは、ビジネスプロセスの効率的で有効なマネジメントに関するすべてを包含する。ビジネスプロセスの中心に位置するのは社員である。だからこそ、彼らをソリューションに巻き込まなければならない。
IBMのステファン・シュワーツ(Stephen Schwarts)が、うまいいい方をしている。「いろいろな改善プログラムがあった。しかし、BPMについて、それは単なるプログラム以上のものだという判断を下したとき、ほかとは本質的に異なる姿が見えてきた。それは、ビジネス戦略だった」──。
このとらえ方が、BPMの実施を成功に導く鍵の一つだと確信する。実施に関わる仕事の枠組みを矮小化しさえしなければ、取り組みやすいプロジェクトなのだ。BPMは、プロセス改善を、必須の基本的マネジメント方式として確立することである。しかし、プロセスマネジメントを先行的そして予知的に行う能力を持たなければ、その効果的な達成はかなわないのだ。
Original Text
John Jeston, Johan Neil: “How to Demystify BPM?” Business Process Trends, February 07, 2006
ジョン・ジェストン(John Jeston) ジョハン・ネイル(Johan Neils)
オーストラリアの大手BPMコンサルティング会社、タッチポイント・オーストラリア社の社員。「Business Process Management: Practical Guidelines to Successful Implementations」(2006年、Elsevier社刊)の著者
高木克文(たかぎ かつふみ)
(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数
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