有能な機能横断的BPMプロジェクトチームの編成は、プロジェクトにおける、もう1つの重要なステップである。
まず、パイロットプロジェクトの開発と実施を行うチームを作り上げる。これは、1つの効果的戦術である。組織の注目を、1プロジェクトの成功に集めることになるからだ。手近な問題解決により迅速に成果を出し、総合的アプローチの効果を実証し、短期間内に一定の価値をもたらすのである。
BPMプロジェクトチームは、仕事の整理と調整を行いながら、プロジェクトの日常業務を遂行する。パイロットプロジェクトを成功裏に完了することがチームの責務であり、その責務を、BPMプロジェクトマネージャを介して推進委員会に対して負う。
もう1つのアプローチが、BPMセンター・オブ・エクセレンス(CoE)の設置である。最終的な利益とパフォーマンスの向上にプロセスがどのように貢献しているかのチェックに専念するメンバーで構成されるグループ──それがBPM CoEの基本概念である。
このグループは、通常、多数のBPMプロジェクトに対する組織横断的支援と、広範な最前線での活動における推進活力の維持を職責とする。そのために、プロセス改善のベストプラクティスに精通した人材でグループを構成する。プロセス開発とプロセスアーキテクチャ・マネジメントのための共通の原則、言語、フレームワーク、および方法論の作成が、彼らの通常の任務である。いくつかの企業のCoEでは、全社プロセスアーキテクチャの構築を目指し、主要プロセス間の相互作用と、さまざまのビジネスユニットにおけるプロセスの利用方法の明確化に取り組んでいる。
しかし、初期段階でCoEを設置すれば、不必要な間接費を抱え込むことになるかもしれない。一般的に、パイロットに必要な内容をはるかに超える広範なプロジェクト・スコープが設定されるからだ。あまりにも多くのインターロックされた変動要素を持つことによって複雑さが増せば、パイロットの進ちょくを遅滞させ失敗リスクを増大することにもなりかねない。CoEコンセプトの真価が発揮されるのは、より広範な組織のニーズに基づくBPMプログラムの取り組みが始まる時点なのだ。
プロジェクト数の増加とともに、組織的一貫性を持ち統合化されたアプローチに対するニーズが高まる。ある意味で、CoEが推進委員会直下の組織になるのだともいえよう。推進委員会とは別組織のままであっても、BPMプロジェクトに関するナレッジとベストプラクティスの中央リポジトリとしての役割を果たすのである。
従って、CoEの設置は、BPM展開の筋書きと経過の一部に位置付けられる、進化の一ステップとしてとらえるべきである。パイロットを成功させるための必須要件ではなく、全社組織を対象として展開する活動なのだから。
BPM CoEへの移行措置を取るよりも、短期間内のプロジェクト成果にこだわり、俊足で走り続けることを好む企業があることも確かだ。しかし、もっと全体的な視野で機会をとらえなければならない。プロセス改善とビジネス・パフォーマンス向上を目指す活動を維持し確実に推進するための健全なメカニズムがCoEなのだ。
パイロットを成功させるためには、CoEルートを避け、BPMプロジェクトチームで進めること。しかも、なるべく少人数で高い能力を発揮できるような編成が求められる。プロジェクトチームを過剰な人数でスタートさせれば、たちまちのうちに動きが取れなくなる可能性がある。
重視しなければならないのは、短期間内に何が達成できるのか、ということだ。それに基づくコアスキルが構築できさえすれば、次第に複雑で要件の厳しいプロセスに取り組むことにより、グループの能力を高めることができよう。
メンバーに求められる役割分担は、次のようなものだ。
BPMプロジェクトマネージャ
BPMプロジェクトの日常的運営に責任を持つ。推進委員会に報告を行うとともに、タスクとしてプロジェクトのスケジュールどおりの進ちょく管理を行う
関連領域のシニアユーザー
関連ビジネス領域における事実上の「プロセスオーナー」。政治的問題に対処し、プロジェクトをビジネス目標からそらさないよう維持する、中枢メンバーの役割を担う
対象LOBに所属する1名以上の分野別エキスパート(サブジェクトマター・エキスパート:SME)
現行業務処理方法のオペレーショナル・メカニックに精通しているメンバー。マクロレベルのビジネス目標に関する十分な理解も求められる。関連する個々の主要ビジネス領域ごとに(プロセス内の個々の役割についてではない)、1名のSMEが必要
リード・ビジネスアナリスト(あるいはプロセスアーキテクト)
プロジェクトに解析的厳密さと解析技術を導入する。SMEとシニアユーザーに、改善機会を発見するための指針を提供する。状況に応じ、ビジネスアナリストやプロセスコンサルタントの増員が必要になる
ITスペシャリスト
少なくとも1〜2名が必要。既存IT資産の活用と再使用の可能性について提案を行う。選定したBPMテクノロジに関する深い知識と、複数システムの統合の経験を持っていることが条件
プロジェクトを成功に導く基本の1つは、プロジェクトチームにふさわしいメンバーを確実に配属することだ。上記役割のそれぞれについて、経験と高いレベルの理解力が求められる。ビジネスラインからメンバーを募る場合は、既存アプリケーションと業務の実態に関する深い認識を備えていることを確認しなければならない。
ビジネスアナリストについては、ビジネス手腕にたけていると同時に、テクノロジの性能にも詳しい人材を得る必要がある。彼らに求められるのは、プロセスのパワーに関する深い認識と、組織内における変革の進展の仕方に精通していることだ。
それをリードする役割には、恐らく、コアプロセスに関連するいくつかの重要プロジェクトを経験した人材を充てることになるだろう。ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)の原理と進め方、あるいは継続的なプロセス改善(シックスシグマ)や継続的な品質改善(TQM)を熟知していることが必要になる。ITとビジネスを効果的に連結する能力を持つ、熟練した外交官を得なければならない。
このビジネスアナリストの役割は、(プログラム仕様を書く)従来型のシステムアナリストには適しない。ビジネスアナリストの役割にビジネスシステム・マネージャという役職名を付し、IT部門と事業ユニットあるいは機能部門の間のインターフェイスを主要任務としている企業もある。
外部コンサルタントの招聘(しょうへい)は、恐らく、経験をほとんど、あるいはまったく持たない役割の実行を社内人材に求めるよりも有効な選択であろう。しかし、ほとんどあらゆるコンサルタントの狙いは、対象領域における自分の専門能力に磨きを掛けることにある。外部コンサルタントの選定に際しては、このことに留意しなければならない。
重点的チェックを要するのは、コンサルタントの経験である。同業界での経験、計画だけでなくその実施に携わった経験、シックスシグマ、TQM、BPRといったチェンジマネジメントとプロセス改善手法のベストプラクティスに関する理解、等。求めるのは、対象ビジネスにおけるBPMの意味を十分に理解し、その運用を目の当たりにした経験を持つコンサルタントでしかない。
セールスに訪れてくる人間と、プロジェクトの実施を担当する人間を、識別しなければならない。コンサルティング会社は、自社の専門能力とスキル(実際には、セールス担当者本人に関する事柄であることが多い)について、誇張気味に説明するものだ。従って、プロジェクトに実際に参加するコンサルタントとして推挙された個人の具体的なスキルと経歴に関心を集中させなければならない。BPMに関する彼らの資格を個別にただすとともに、顧客におけるBPMプロジェクトの経験について事前チェックを行うことが必要である。もし、あるコンサルタントを、BPMエキスパートでなく「プロセス・エキスパート」として採用しようとしているのであれば、彼が経験を築き上げたプロジェクトにおける類似成果に注目すること。専門能力と資格の事前チェックに際し、提示された照会先でチェックすることも、同等に重要である。
(続く)
Original Text
Derek Miers, "The Keys to BPM Project Success." BPTrends, January 2006
デレク・マイヤー(Derek Miers)
個人として活動する業界アナリスト。BPMI.org.の共同議長。最近では、最新のBPM環境に関する総合レビューを完成した(「BPMスイート」 BPTrends刊)。
高木克文(たかぎ かつふみ)
(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数。
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