坂口倒れる! そして……
翌朝、出勤した坂口は、『上級シスアド合格完ぺき対策』を見ながら、プロジェクト企画書の作成を始めた。そこに谷田が出勤してきた。
谷田 「昨日はどうもありがとうございました!」
坂口 「昨日はだいぶ酔っていたみたいだったけど、あの後大丈夫だったの?」
谷田 「おかげさまで、昨夜はぐっすり眠れたので元気になりました。昨日は何か、ご迷惑を掛けませんでした?」
坂口 「いや、別にぃ……」
谷田は、そのとき、坂口が、上級シスアドのテキストを見ていることが気になった。
谷田 「坂口さん、いまごろ、上級シスアド試験の勉強ですか?」
坂口 「いや、違うんだよ。システム企画書作りの参考にしているんだ」
谷田 「そうですよね。この間試験が終わったばかりですし。ところで、坂口さんも受験されたんですか?」
坂口 「受験することはしたけど、来年、もう1度チャレンジだよ。いま見ると、このテキスト、いいこと書いてあるんだけど、ほとんど勉強する時間が取れずってところだね。ところで、いま、“坂口さんも”っていったよね。谷田さんも受験したの?」
谷田 「あ! まずい! 内緒にしておこうと思っていたのに! 実は、初級シスアドを受験しました」
坂口 「どうだった。合格発表は確かもうすぐだよね?」
谷田 「頑張ったつもりなんですけど、いや、そのことはいまは聞かないでください……」
そこに、水元が出勤してきた。
水元 「おはようございます、谷田さん! 昨日は、ちゃんと坂口さんに送ってもらいました?」
谷田は、少し、顔を赤らめながら、うなずいて仕事に就いた。坂口は、谷田が顔を少し赤らめたのには気付いたが、なぜかは理解できずにいた。そして、坂口は、プロジェクト企画書の骨子を書き出し、作業を進めていった。
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
いざ書き始めると、やるべきことがどんどん出てきて、いくら時間があっても足りない。営業の仕事もこなさなければならないので大変である。毎日、昼間は営業に、夜は企画書作りと忙しい毎日であった。土曜日も出勤して企画書を作り、日曜日は自宅で企画書作りという毎日だった。
そんな日々が続き、ついに11月18日の金曜日。坂口は39度の熱を出して寝込み、会社を休んでしまう。
谷田は、「坂口がろくなものを食べてもいないのでは?」と心配になり、帰宅途中に見舞いに向かうことにした。経堂駅で降りて、駅前の八百屋で果物を買い、住所を頼りに坂口のマンションに向かう。
少し迷ったが、15分ほど歩いて、坂口のマンションに着いた。1階のエントランスから、501号室の坂口のマンションに連絡する。坂口がインターフォンに出て、セキュリティドアが開いた。エレベータで5階に着く。501号室のドアの前で、少しどきどきしながら、インターフォンを押す。しばらくして、坂口がパジャマ姿のままドアを開けた。
谷田 「心配だったので、お見舞いに来てしまいました……」
坂口 「心配を掛けて申し訳ないです。少し寝ていれば良くなるから、大したことはないよ」
とせきをしながら対応した。
谷田 「これ、お見舞いの果物です。召し上がって元気になってください!」
坂口 「ありがとう。でも申し訳ないね。わざわざ来てもらっちゃって」
谷田 「先日送ってもらったお礼も兼ねてですので、気にしないでください。ところで、夕食は食べたんですか?」
坂口 「さっき、カップラーメンを食べたよ」
谷田 「カップラーメンですか? しっかり食べて、栄養を取らないと駄目ですよ!」
坂口 「いつも外食なんで、ここには、食べるものはラーメンくらいしかないんだ」
谷田 「そうなんですか? 気が付かずごめんなさい。果物じゃなくて、何か、夕食に食べられるものを買ってくればよかったですね。これから、何か買ってきましょうか?」
坂口 「いや、今日は遅いからいいよ。せっかくだから果物をいただくよ」
谷田 「りんごを持ってきたので、私が皮をむきましょうか?」
坂口 「じゃあ、お言葉に甘えてお願いするか。片付いていないけど、中に入ってくれる?」
谷田 「じゃ、少しだけお邪魔します。りんごだけむいたら帰りますね」
谷田は、りんごの皮をむき、坂口に差し出す。
坂口 「ありがとう。少し、一緒に食べていったら?」
谷田 「私は、いいんです。坂口さんに栄養を付けてもらって早く元気になってもらわなくちゃ!」
坂口 「すぐ、元気になれると思うよ」
谷田 「でも、坂口さん、明日の食事はどうするんですか?」
坂口 「適当に何とかするよ」
谷田 「でも心配だから、明日、早めにお弁当を作って持ってきますね」
坂口 「ありがとう、でも、迷惑を掛けるからいいよ」
谷田 「誰か、ほかに当てがあるんですか?」
坂口 「そんなことはないよ」
谷田 「じゃ、明日、もう1度来ますね。今日は、もう遅いので、これで失礼します」
坂口 「ありがとう。気を付けて帰ってね」
そうあいさつして、家路に就く谷田の後ろ姿はどこか楽しそうだった。
◆次回予告◆
PDAの配布に先立って、ユーザーである営業部員の要望調査やベンチマーキングなどを行った坂口。思わぬ反発などもあったものの、何とか要件もまとまり、いよいよプロジェクトの企画書作成の段階まで進んだ。しかし、企画書作成の重労働がたたって倒れた坂口のお見舞いに来た谷田と……。
次回は、PDAの先行配布とプロトタイピングなどを経た後、いよいよプロジェクトが社長に承認され、正式プロジェクトとして発足する。助っ人にはあの人も参加し……。一方、坂口の家では谷田と深田がバッティングして修羅場が……。お楽しみに。
東京本社・営業1課 メンバー構成
課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳
課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳
主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳
主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳
チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳
アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 26歳
アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳
営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳
上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳
今回登場メンバー
配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう)41歳
製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや)33歳
情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと)36歳
総務部新人 深田 祐子(ふかだ ゆうこ)23歳
営業2課主任 氷室 信次(ひむろ しんじ)32歳
profile
シスアド達人倶楽部
「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者5名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。
執筆メンバー5名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。
那須 結城
上級システムアドミニストレータ連絡会正会員、製造業勤務
- 一番つらくて難しいのは“根回し”
- 難航するプロジェクトと恋の行方(第5話)
- そして、次のステージへの旅立ち
- 人生を揺るがす人事異動
- そして、運命の稼働日
- 最後の難関、経営会議に挑む
- システム移行はトラブルだらけ
- システム入力をサボるやつに使わせる方法
- ライバルにアドバイスをもらうずうずうしさも必要だ
- 本当につらいときに支えになるもの
- 頑固オヤジを口説くには美人広報を使え
- “人を使う”ということの難しさ
- それは仕様です〜ユーザーvs.システム部門開戦
- 気安くバグって言うな! 妥協とプライドのはざまで
- 仕事人間がもらったすてきなクリスマスプレゼント
- 仕事に生きた男の悲しい物語
- 予想以上に成長する後輩と、大御所との出会い
- 自己中な最低主人公、そしてヤシマ作戦発動!
- 明らかになる専務の陰謀、そして救世主現る
- 情報漏えい発覚と、未熟さに気付き身を引く女
- 試験に合格したものの、上級にふさわしくない坂口
- 責任を押し付ける上司と、泥沼の四角関係
- 戦う女のほろ苦い過去と、副社長の苦悩
- シスアド試験前の休息、猛アプローチ始まる!(第6話)
- 坂口に恋のライバル出現〜相手は電車男!?(第5話)
- 鍵はリーダーの力量と気になるお姉さまの魅力(第4話)
- 高過ぎる“部署の壁”と好きなのにすれ違う2人(第3話)
- ワガママほーだい幹部の調整に苦しむ坂口は……(第2話)
- 敵は大企業にはびこる縦割り組織と恋の距離感(第1話)
- 上司にITを使わせる秘訣は1ページのマニュアル!?
- 大失敗する坂口、そして和解する女2人
- マニュアル作りに燃える坂口、でも本当に必要なの?
- 坂口リターンズ!! 今度は使えるマニュアル編
- 告白されるも決断できず。そして、転勤で……(第11話)
- トラブル発生、やはり原因は人だった……(第10話)
- ついに動き始めたシステムと加速する恋心(第9話)
- 激突する女と静かなプロジェクトの幕開け(第8話)
- 企画書作成の難しさと酔った男女の行方(第7話)
- 光が見えたプロジェクトと気付かぬ恋心(第6話)
- 顧客獲得とシスアドに大切なこと(第4話)
- 同僚と社長……錯綜するそれぞれの思いと業務(第3話)
- 運命の出会い……そして覚醒へ(第2話)
- 新任シスアドの理想と現実と自己満足……(第1話)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.