ビットレート160kbpsのMP3を、ATRAC3 Plus 48k、64k、256kbps(間はないのか、間は……)に変換して聞き比べたところ、さすがに48kでは音質にギスギスした感じがある。音楽のタイプにもよるだろうが、おそらくほとんどの人は違いがわかるはずだ。
64kは48kよりはずいぶんギスギスした感じが減っており、あまり真剣に聴きこまなればまあこんなもんか、で済む程度にはなる。だがよく聞きなじんだ曲ならば、高域の抜け、ステレオセパレーションの減少、音色の解像度が若干落ちていることに気づくだろう。
256kぐらいになると、再エンコードとはいえ、オリジナルのMP3とだいたい同等だと思う。いや、というのも同じ条件でオリジナルのMP3と聞き比べられないので、断言はできないのだが、まあこれぐらいだったらばだれでもOKでしょうという感想である。
音質的には、再エンコードでも遜色ないレベルにはできるのはわかった。だが、時間がかかる。
驚いたことに、5月27日にソニーから発表されたポータブルAVプレーヤー「HMP-A1」は、なんとATRAC3が再生できない。その代わりMP3が再生できるという。付属のソフトもSonicStageではなく、「MusicMatch Jukebox for HMP-A1」だ。
HMP-A1は、VAIO部隊ではないところで企画された製品である。PC系部隊がAV機器系コーデックを採用し、AV機器系がPC系コーデックを採用する。従来ならば筆者はこれを、「迷走」と表現したことだろう。
だがこのお互いのすれ違いは、確信犯だ。
つまり、それぞれの部署が得意とする顧客とは違ったところに向かって製品を作っていったら、面白いものができるんじゃないかという、ソニー得意の戦略である。確かにPCユーザーにとっては、HMP-A1の仕様はVAIO Pocketより汎用性が高く、便利なものに見える。
ATRAC3とMP3両方を一度にサポートするポータブルプレーヤーが出てこないのは、一つにはデコーダチップの問題もあるだろう。ATRAC3デコーダチップはほとんどMD用として作られている関係から、1チップ内にMP3やWMA再生機能などを盛り込む意味がない。つまり両方をサポートするには、別途チップが必要なのであり、また複数フォーマットに対応すればそれだけライセンス料も必要なわけだ。それなら企画の段階から戦略的にコトを運んでいかないと、機能に盛り込まれないということになる。
PCユーザーなら、既に大量に変換してしまったMP3ファイルを、いまさら捨てられない。あるいはそれがWMAの人もいるかもしれないが。これはソニーがATRAC3を捨てられない理由と同じでもある。それならば、折れるのはオレたちか? 違うだろう。コンシューマーエレクトロニクスは、便利じゃなきゃ買わないものだ。
従来ならばポータブルミュージックプレーヤーは、カセットテープやMD、メモリースティックといった消耗品が一緒に動いたものだ。だがHDDを使ったプレーヤー出したことで、今後ソニーはメディアセールスとつながらないビジネスモデルを構築することになる。
VAIO Pocketは、モノとしての質感は高い。リモコンの機能や作りは、普通のPC屋にはまずできない細工だ。だがiPodを買っているのは、パソコンユーザーだ。はたしてこの現状を、ATRAC3・ATRAC3 Plusだけで生き残れるのか。
新VAIO製品で最も先行きが心配なのが、VAIO Pocketだ。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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