ぼく自身、真空管を用いたパワーアンプを自室で使っているが、(ドイツ製のオクターブMRE130)、その魅力の1つにトランジスタアンプでは得られにくい“倍音の美しさ”がある。本機音質担当エンジニアは、その秘密は、真空管は基本波に対して比較的低次の高調波成分を発生させるところにあるのではないかと推測、真空管シングルアンプの回路を実際に設計、それをシミューレーションし、ユニフィエ内で演算させるというワザを盛り込んだのである。
BDレコーダーにこんなマニアックなサウンド・エンハンスメント機能を盛り込むとは……。実際に音を聞くまでは、その効果をマユツバでは? と疑っていたが、弦楽器の美しい響きやヴォーカルのなめらかな質感など、じつに“らしい”のである。これには参った。まさに真空管アンプをほうふつさせる音なのだから。
そんなわけで、本機の真空管サウンド・モードを生かして、クリント・イーストウッド監督の最新映画BD「グラン・トリノ」を観てみることにしよう。本作の日本盤BDは、9月16日の発売が予定されているが、ぼくはいち早く日本語字幕付きの英国盤BDを入手したのである。
「グラン・トリノ」は、俳優廃業を宣言したイーストウッド最後の主演映画となるようだが、彼の覚悟が映画のそこかしこから強烈に伝わってくる“アメリカ映画”の傑作だった。前回の連載で紹介した前作「チェンジリング」も素晴らしい映画だったが、本作も負けず劣らずの見応えのある作品だと思った。
長年、フォードで“組み立て工”として働き、朝鮮戦争で深い心の傷を負ったポーランド系の“毒舌頑固じいさん”というのがイーストウッドの役柄だが、その老境の背に過去自分が演じてきたキャラクターを反映させた、ビターな味わいの香気あふれる男映画に仕上がっている。
画質・音質はともに極上。本機DMR-BW970で観るデトロイト郊外の虚無的風景やイーストウッドの年輪を重ねた深いしわのリアリティに本機の再生画質の素晴らしさを実感した。
最後に流れるイーストウッド本人と英国人ジェイミー・カラムとのデュエットは、アメリカの過去の栄光、自動車産業と映画に対する哀切な哀悼歌に聞こえるが、真空管サウンド・モードを効かせてその音楽に耳を傾けてみると、その哀切さがよりいっそう心に染みた。
ボディーを支えるフットが樹脂製からより堅固なセラミック製に変更されたりはしているが、見た目まったくフツーの家電製品みたいなDMR-BW970。しかし、その内部に恐るべき能力を秘めていることが実感できた数日間の邂逅(かいこう)だった。
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