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今だから知っておきたいハイレゾ音源フォーマットの基礎麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」特別編(2/2 ページ)

» 2012年12月14日 20時00分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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どっちにする?

麻倉氏: まず迷うのは、WAVとFLACは符号としては全く同じということですね。では、音はどうかというと、これは違います。符号は同じでも元に戻す(デコード)作業が発生するため、FLAC再生ではWAVよりも確実に処理工程が増え、そのために電流が必要になるのです。その負担の少ないWAV(完全非圧縮)のほうが、絶対的に良い。ただ、あまりクオリティーの高くないオーディオシステムでは違いも分かりにくいですし、ハイエンドを目指す人でもなければ、あまり気にする必要はありません。

 むしろ、FLACにすると容量が半分になるとか、ジャケット写真が表示される、メタデータの有無といった利便性に関わる部分も重要です。例えば、同じハイレゾデータでも、再生時にディスクのジャケット写真を表示してくれるとうれしいですよね。WAVには入りませんが、FLACには入っていて、モノによっては歌詞まで参照できます。WAVは別ファイルを用意することになるので、機器によって対応が異なるのです。

 とにかく音質コンシャスの人にはWAVがおすすめ。そこまでは求めず、環境的な利便性もほしい人はFLACが良いでしょう。ただ、ユニバーサルが全面的にWAVを採用してから事態は変わりつつあります。ハイレゾ音源を購入する人はとにかく“最高の音”を求める傾向がありますから、これからさらにWAVの配信は盛り上がると思います。

 一方のDSD配信も見逃せません。まだまだ音源は少ないのですが、DSD配信のパイオニアといえる「OTOTOY」は生録音源にも注力していますし、「e-onkyo music」でも1000曲以上のラインアップがあります。この秋からDSDのネイティブ再生に対応したUSB DACが登場し始めたこともあり、今後の盛り上がりに期待できますね。

DSD対応USB DACの例。ラトックの「RAL-DSDHA1」とKORGの「DS-DAC-10」

 ただ、一口にDSDといっても、中にはリニアPCMから変換した楽曲もあり、一概に「良い」といえません。一番いいのは、やはりDSDで録音したものをそのまま出すこと。例えばOTOTOYの生録音源は音が良いです。購入前には、サイトの紹介文にある収録方法など、その音源の素性もチェックしましょう。

――DSDの音には固定ファンも多いです

麻倉氏: ワンビット方式(DSD)の音は、よく「アナログ的」と言われて人気があります。傾向としては、しゃっきりとしたリニアPCMに対して、DSDはまったり系。リニアPCMは演算でD/A変換しなければなりませんが、DSDはローパスフィルターを通すだけでアナログの波が出てきますので、アナログ的といわれるのは、そのためでしょう。

 また、WAVで配信しているユニバーサル音源が「音がスゴイ」と言われる理由も、実は彼らがDSDマスターを持っているからです。「いよいよDSD配信が本格化」といえるようになるには、ユニバーサルがDSDそのものの音源を出すか出さないかにかかっているといえるのではないでしょうか。

――WAVやFLACでも、192kHz/24bit、96kHz/24bit、48kHz/24bitなど、いくつかの種類があります

麻倉氏: 単純に数字の大きいほうが高音質と思われがちですが、実はそれほど単純ではありません。そもそも過去の楽曲については、レコード会社が持っているマスターに左右されます。例えばアナログマスターが残っていれば配信フォーマットの選択肢も増えるのですが、製作時期や楽曲のジャンルによっては48kHz/24bitのCDマスターしか残っていないケースもあります。それをアップコンバートしたハイレゾは、形式的にはハイレゾですが、音はどうでしょう。

麻倉氏: 新規録音についても、音楽ジャンルや録音方法で違いがあります。e-onkyo musicの田中さん(オンキヨーエンターテイメントテクノロジー、ネットワークサービス部の田中幸成マネージャー)に聞くと、一発収録のクラシックなどは192kHz/24bitが向いているけど、ボーカルの入ったポップスでは96kHz/24bitのほうが良い場合が多いそうですね。やはり数字より“作り込み”。マスタリングに力を入れたものが良いということでしょう。

WAV(WAVE、RIFF waveform Audio Format)

PCユーザーにはおなじみ、マイクロソフトとIBMが開発した非圧縮の音声フォーマット。WAVはいわゆるコンテナの形式であり、中に入っているのはPCMだ。このためWAV(PCM)などと表記されることも多い。ファイル容量は大きく、96kHz/24bitなら3分前後の曲で100Mバイト超えが一般的。現在もっとも高音質な配信フォーマットである



FLAC(Freee LossLess Audio Codec)

フリーの可逆圧縮方式を使用した音源ファイル。可逆圧縮(LossLess)とは、圧縮前の状態に完全に戻せる圧縮方式のことで、MP3などの非可逆圧縮方式と異なり、理論上はまったく同じ符号を取り出せる。中身はWAVと同じPCMながら、ファイル容量はWAVの約半分になる。またジャケット写真やメタデータを収録できる利便性もある



DSD(Direct Stream Digital)

ソニーとフィリップスが開発・規格化した1bitオーディオフォーマットで、SACDにも採用された。音声信号を1ビットのデジタルパルスの密度で表現し、広い周波数帯域、低ノイズ性に加え、比較的ファイルサイズが小さいといった特長がある。これまでは再生環境(対応機材)が限られていたが、この秋から対応USB DACなどが増えてきた。従来の2.8MHzよりサンプリング周波数を拡大した5.6MHz対応機もある



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