2012年もあとわずか。今年も1年間の総決算として、AV評論家・麻倉怜士氏が1年を通じて、とくに印象に残ったものや優れたデバイスをランキング形式で紹介する「デジタルトップ10」をお送りしよう。
麻倉氏:今年も年末の締めくくりとして、恒例のデジタルトップ10をやりたいと思います。まず2012年を一言で言い表すと、将来が楽しみな“種まき”の年だったと思います。2011年7月のアナログ停波以降、テレビの売れ行きは低調ですが、それを打破しようという動きがありました。また、ここ数年の傾向として、単にハードが良くなるだけでなく、ソフトやサービスを絡めた進化が著しい。2012年のデジタルトップ10も、バラエティーに富んだ結果になりました。
麻倉氏:まずは番外として、Blu-ray Discの「魔女の宅急便」を紹介したいと思います。言わずと知れたスタジオ・ジブリの名作で、今年の夏に「コクリコ坂から」と一緒にBD化されました。
発売前から多方面で期待されていましたが、実際に映像を見るとすばらしいですね。クリアーで明瞭(めいりょう)。中でも驚いたのは色がとてもキレイなこと。深みがあり、グラデーション豊かで、優しいタッチがあります。1989年の作品ですから、BD化にあたっては丁寧に修復とエンコーディングをしなければならなかったはず。普段はアニメはあまりランクに入れないのですが、作品の素晴らしさと映像の美しさ、そしてピクチャートーンが時代を表しているということで番外に入りました。それに、主題歌は松任谷由実さん(ユーミン)です。
――あ、主題歌も評価に入るんですね
麻倉氏:2012年は、松任谷由実さんのデビュー40周年。アニバーサリーですから当然です。また、日本は国際的に見ても、CDのセールスが前年同期比で増えている珍しい市場です。その大きな理由として、ミスター・チルドレンやユーミンといった“大人が楽しめるコンテンツ”が売れていることが挙げられます。ですから、番外の2つめとして、ディスクメディアの復権を挙げたいと思います。
麻倉氏:先日、アナログレコードのプレスを手がけている東洋化成に話を聞く機会がありましたが、アナログプレスは前年同期比で増えているそうです。リマスターした音源をレコードで出すといった動きもあり、ディスクメディアがここにきて復活しています。
ハイレゾ音源をBlu-ray Discに収録した「BDオーディオ」(BDミュージック)なども同じです。高音質音源の入手方法はネット配信がメインですが、再生にはPCやネットワーク環境が必要になります。ITmediaの読者層には問題ないでしょうが、やはり一般人にはハードルが高いのです。
一方、BDオーディオ、CDなどのパッケージソフトは、プレーヤーがあればディスクを出してすぐに楽しめます。先日、日本オーディオ協会の講演会でBDオーディオについて話したのですが、参加者の中でお年寄りの方がニコニコしてうなずいていたのが印象的でした。配信は無理だけどディスクならハイレゾが楽しめると納得しているようでした。
2012年のもう1つのトピックとして、ユニバーサル・ミュージックが出した「100%Pure LP」があります。これは、DSD音源のメタルマスターからダイレクトにレコードを起こしたもの。通常、レコードはラッカー板(凹)、メタルマスター(凸)、メタルマザー(凹)、スタンパー(凸)という工程を経てプレスされるのですが、100%Pure LPではメタルマスターから直接、溝の成形を行います(ダイレクト・プレス)。
また、レコードの素材になる酢酸ビニールとストレートレジン、安定剤、カーボンのうち、溝からの読み出しを阻害するカーボンを取り除いたことも大きな特長です。カーボンを配合するのは、レコードの強度を高めたり、再利用しやすくするといった目的があり、レコードが黒いのはそのためです。しかし今回は、そのカーボンの機能を別の素材で解決し、音を阻害する要因をすべて取り除いたそうです。第1弾として、12月12日にザ・ローリングストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」やジャズの名盤など15タイトルを発売しました。かつての名盤をリフレッシュしてよみがえらせる、世界初の試みですね。
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