麻倉氏:劇場用のドルビーアトモスでは、最大118個のオブジェクトを定義できます。配置できるスピーカー(チャンネル)は64個。もちろん、劇場用そのままでは情報量が多く、再生時のレンダリング処理にもパワーが必要ですからそのままでは家庭では使えません。家庭用はスピーカーが最大35個(24.1.10)となっていて、今後メインになるのは7.1.4の12ch仕様だと思います。従来の7.1chに4つの天井スピーカーを加えた形です。
このように家庭用ドルビーアトモスは劇場ほどのスケールではありませんが、クロケット氏は「可能な限り、劇場の体験を損なうことなく家庭でも楽しめるようにした」と話しています。ドルビーアトモスのデータは「スペーシャル(空間)コーデック」を使って圧縮して家庭に届けます。おそらくオブジェクト数などはかなり減っているはずですが、詳細は「スペシャルシークレット」だそうです(笑)。多分心理音響的な仕組みも入っているのではないでしょうか。
スペーシャルコーデックで圧縮したデータはドルビーTrueHDか、ドルビーデジタル+として伝送します。つまり既存のフォーマットをコンテナとして使うため、Blu-ray Discやネット配信動画などに採用することは問題ありません。プレーヤーやSTBを買い替える必要もないのです。ただ、注意したいのはプレーヤー側の設定をPCM出力(プレーヤー側でデコードする)ではなく、ビットストリーム出力(信号をそのまま出力してAVアンプ側で処理する方法)にしておかなければならないことです。
――なるほど。しかし天井にスピーカーを設置するのは、やはりハードルが高いのではないでしょうか。
麻倉氏:AVアンプメーカーに言わせると、「天井スピーカーなんて無理」と言っていた人も、ドルビーアトモスを体験した後は、「どうすれば設置できるのか」に変わるそうですが、とはいえやはり一般家庭の天井にスピーカーを設置するのはハードルが高いですね。そこでドルビーは「ドルビーイネーブルドスピーカー」という特別な指向性を持つスピーカーを開発しました。
これは、斜め上向きのスピーカーを使って天井に向けて音を出し、反射させて天井にスピーカーが下向きに取り付けられているのと同様の効果を得る技術です。単に反射させるだけではなく、頭部伝達関数を応用して、天井から音が来る場合の数式を当てはめます。つまりが到達したときに頭蓋骨を通り、肩で反射し、耳に入るという過程を数式化して当てはめると、人間が「これは音が天井から来ているのだ」と錯覚しやすいのです。これで“音が振ってくる”感覚を可能にしました。後編で述べますが、その効果は大きいですね。
さらにドルビーは、この技術を応用してモバイル環境向けのドルビーアトモスを開発していることも明らかにしました。通常の2chヘッドフォンでも頭部伝達関数を使ってバーチャルなドルビーアトモスを再生します。例えばタブレットでVoDなどを見るときも、迫力のアトモス的な音響が楽しめるようになるかもしれませんね。
――後編では、AVアンプメーカー4社が披露したデモンストレーションの様子とその技術、製品のインプレッションについて聞いていきます。
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