ギブソンイノベーションズのCEO、Wiebo Vaartjes氏は、音楽ファンを中心としたコミュニティに対して、それぞれの市場ごとに最適化したブランドで商品を届けるマルチブランド戦略が、その根底にあるという。ギブソンイノベーションズはフィリップスのオーディオ部門が元になっている新しい会社だが、この戦略の根幹はギブソンCEOのHenry Juszkiewicz氏が推進しているものだ。
例えば、欧州を中心に北米でもウサイン・ボルトをキャラクターとしたTRAINERというオーディオブランドがスポーツ愛好家には知られている。またGoGearというブランドを立ち上げ、こちらは若者を中心としたデザインと利用スタイルを重視したカジュアルなオーディオ製品を企画販売するといったやり方だ。
こうした中でオンキヨーブランドは、独立したブランドとしても立ち位置を明確化することで製品プロモーションを行うなど、オンキヨーの持つノウハウやブランド力を活用して、他グループ内ブランドの品質向上やイメージ戦略向上に活用する他、販売などでも協力関係を詰めていくという。
例えばヘッドフォンやイヤフォン、Bluetoothスピーカーについて、オンキヨーと共同開発するほか、オンキヨー製品の海外販売をギブソングループが持つ販売網でサポートしたり、逆にギブソンブランドのオーディオ製品を日本でオンキヨーが行うといった計画が進んでいるという。
パイオニアブランドについては、直接ギブソンの製品と関わることはないとのことだが、オンキヨーとの事業統合が進めばシナリオに変化が現れることも予想される。しかし、ギブソンの戦略から見えてくるのは、ギブソングループ内のシナジー効果だけではない。彼らの考え方、顧客との接し方などは従来のオーディオ機器ビジネスと少しばかり毛色が違う。
元々、オーディオ機器メーカーは音楽との接点が多い。ソニーは音楽レーベルを持ち、著名なクラシック音楽奏者や指揮者を支援し、音楽ホールなども設立、運営していた。これはソニーだけに限った話ではなく、RCA、フィリップスなど、かつてオーディオで反映したメーカーは、音楽との関係が深い。しかし一方で、現代の感覚からすると、トラディショナルなオーディオメーカーの音楽業界との接し方は、やや堅苦しいところがあるのではないだろうか。
一方、Dr. Dreが始めたBeatsブランドを持ちだすまでもなく、近年のオーディオブランドはもっとカジュアルで、新しい音楽との距離感が近い上、製品の企画もアプローチが異なる。
実はBeats最初の製品であるヘッドフォン(当時はモンスターケーブルが開発・生産を担当していた)は、なぜか初回ロットがわが家に届いたのだが、Dr.Dreのスタイルからもっと派手な音を想像していたものの、実際には見た目こそ派手だったものの、オーディオファンにも受け入れやすいバランスの良いヘッドフォンだった。
Beatsはそうした中心となる製品を中心に起きつつ、しかし価格帯ごとに音質傾向を変え、カジュアル層からコアな音楽ファンまで幅広く支持されるブランドに成長し、アップルに買収されるまでに至ったのはみなさんご存知のことだろう。
音楽制作者と音楽ファンのコミュニティーの中に、オーディオ製品が自然に馴染む。そんなブランドが近年は注目を浴びるようになっている。ギブソンはそうしたオーディオ市場のトレンドを上手に取り入れて企業戦略にしている。
楽器、音楽制作、編集といった分野に食い込んでいるギブソングループのブランド力や商品ポートフォリオを活用しながら、そのイメージやノウハウ、コミュニティとのつながりを、音楽ファンが実際に使うオーディオ製品とつないでいく。そこにギブソンがコンシューマオーディオのブランドを傘下に収めていく意図がある。
このように書くと、「日本のブランドが次々に海外企業の傘下に入って寂しい」といった意見も出てきそうだが、筆者が知る限り、ギブソングループは各ブランドの自主性を何よりも重んじている。そうしなければエンジニアのモチベーションは上がらず、各製品の品質に影響が及び、結果的にブランドを殺してしまうからだ。
その自由な気風は現在、グループのCTOをオンキヨー出身の菅正雄氏が務めていることからも分かる。菅氏は東芝で”ダイナブック”ブランドの基礎となる一連の製品を開発した後、ソーテックに移籍して社長を務め、オンキヨーとの事業統合でオンキヨー入り。オンキヨーがギブソン傘下に入った後、ギブソンCEOのHenry Juszkiewicz氏が「これからはコンピュータとネットワークの時代だ」として、菅氏をグループCTOに任じた。
これは単なるエピソードにしか過ぎないが、各ブランドの持つ良さを活かしながら、マルチブランドでミュージシャンをサポートし、音楽制作から消費者向けオーディオ機器まで手がけるギブソングループの懐の深さをうかがわせる話ではある。そこには日本のオーディオメーカーが見習うべき考えもあるのではないだろうか。
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