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» 2015年06月17日 10時30分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:NHK技研公開に見る8Kの“今” (2/2)

[天野透,ITmedia]
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JVCプロジェクターが映す「本物のSHV」

――8Kだけではなく、色という要素でもSHVは非常にリッチですね。となると、映像を映し出すモニター装置もかなりのハイスペックが要求されるはずです

麻倉氏:このシアターで使われたのはJVCケンウッド製SHVプロジェクターの最新式です。今までは4Kパネルを「e-シフト」(画素ずらし技術)で斜め方向にずらして、それなりの「8K的な映像」を作っていたのですが、今回は初めて3300万画素の3板式を使っています。要するに8Kのフル解像度が初めて出た、という訳ですね。しかもリフレッシュレートは120Hzで、なおかつレーザー発光によってBT.2020を100%カバーしています。

JVC製8Kプロジェクター試作機の最新版。ついにSHVの「フルスペック」を達成した

――ということは、今まで出てきていた8Kは「本物のSHV」ではなかったのですか?

麻倉氏:去年まで「フルスペック」をうたっていたシャープの85インチディスプレイは、色表現に関してはカラーフィルターに拠っていたため、BT.2020を80%くらいしかカバーしていませんでした。それでも赤の再現性などはかなり変わっていたのですが、今回JVCのフルスペック8Kプロジェクターを見てみると「色の違いがものすごくあるな」と感じさせられました。例えばシアンの色の出方や、蒼の深みなど。赤い色は、単に派手に「朱い」のではなく、ダークな色彩を帯びながら非常にクリアな「紅」が出ています。レモン色、黄色の再現なども素晴らしいですね。コンテンツに関しても、BT.709用をはみ出すBT.2020用の映像素材を集めて丁寧に撮影したというだけあって、非常にピュアなBT.2020の凄さを持っています。しかもそれがウォーブリング(画素ずらし)ではない、8K画素そのものが出てくるというもので見た時に、今の4K画質との違いを深く感じた。色の違いに関しても、ここまでのものが出るのかと。

――建物2階サイズの巨大ブラウン管モニターを見ているような感覚でした。見上げるほど大きなサイズなのに、色も深いしブレも感じない映像というのは、本当に未曾有の体験です

麻倉氏:今までの技研でも同じような大画面展示はやっていたのですが、BT.2020でなかったり、120Hzでなかったり、ウォーブリングだったりしてフルスペックではありませんでした。われわれは、いわば「満月ではない欠けた月」を見ていた訳ですね。それが今回初めてフルスペックを見た時に、8Kの良さが「単に4Kの解像感が4倍になった」だけではないということが見られました。1つ1つの画素がBT.2020の色彩、120Hzの速さで駆動し、こういった要素が合算されることで、初めて「8Kの本当の凄み」とはこういうことなのかが分かりました。まさに「8Kでないとここまでの表現力、凄み、感動性はない。こういう映像を初めて観たな」と強く感じましたね。

――単なる8Kではなく、BT.2020の色や120Hzの駆動速度といった部分まで総合的にリッチになって、初めて8Kが真の実力を発揮するというわけですね

麻倉氏:その通り。ところで、巷では今「8Kと4Kどっちがエライの?」というような話がけっこうあります。その中には「8Kといっても家庭で再現するのはなかなか難しいのではないか」「むしろ4Kをテコにして、これからの次世代放送を進めるべきだ」とかいうような、いろいろ意見が聞かれます。でもやっぱり、フルスペックになった時の8Kは、圧倒的な威力を持った凄い映像です。そうすると、4Kの次はやはり8Kですね。

――高画質が目指すべき大本命は8Kだ、と?

麻倉氏:過去を振り返ってみると、日本のハイビジョン規格は「垂直方向の走査線が650本以上で、アスペクト比が16:9」という定義がされて、「なんちゃってハイビジョン」や「偽ハイビジョン」とか「本物のハイビジョン」など、いろいろなハイビジョンがありました。例えば720pは、1280ピクセルの横に対して縦は720ピクセルという画素数です。WXGAは1366×768ピクセルで、これも「規格上は」ハイビジョンですね。でも今や「ハイビジョン」といえば、1920×1080ピクセルのフルHDしかいいません。となると、将来目指すべきはやはりフル規格のフルハイレゾ映像、つまり8Kなのではないでしょうか。その途中に4Kがある。4Kはいわば、ハイビジョン時代の720pやWXGAにあたります。そういう意味では、4Kは「ハイレゾ映像1」で、8Kは「ハイレゾ映像2」というように考えると納得がいくのではないでしょうか。

――フルHDを基準にすると確かに4Kも凄いけれど、次世代の頂点として持つべき目標はやはり8Kという訳ですね

麻倉氏:机上論として「8Kは凄い」といわれていましたが、目標点としての8Kを見据えた時に「8Kの本当の威力はどこまであるのか」というのが、今回の技研が初めて、本当の意味で「8Kの凄さ」が顕になりました。特に今回、JVCの映像が素晴らしかったのが、ダイナミックレンジ5000:1という、黒の沈みがあるところです。これに加えて、今回言っていなかったHDRが加わると、さらに8K凄みが加わるな、という感じを持ちました。


BT.709とBT.2020の違いを示すイメージ。紅や碧の深さが、写真からでも分かる

55型なら8Kでも家庭に入る

――8Kが未曾有の表現力を秘めていることがよく分かりました。ですが今まで出てきた8Kはどれもディスプレイサイズがかなり大きかったですよね? 映画館や今回のようなホールならばともかく、実生活で一番映像に接するのはやはり家庭だと思います。それを考えると、巨大なサイズのままでは8Kが一般人にとって縁の薄いものになりませんか?

麻倉氏:そんなことを思っていたら、実は今回パナソニックが興味深い試作機を2台展示していました。1つは5、6年前に出てきた145インチのプラズマです。以前NHKでも一回展示していたものが復活したカタチですね。

 もう1つは最新版で、55インチのものです。BT.2020は対応していないですが、120Hz駆動のIPS液晶です。これはどちらかというとB2Bを見据えて開発をされたもので、A0フルサイズに近い広さを持っている大きさです。設計師がよく使う図面サイズとほぼ同じ大きさなので、これをタブレット感覚のタッチパネルで使えれば、というのが狙いです。ちゃんと需要が見込めるところから作りましょうというところで、B2Bとしてまずは考えられました。

――なるほど。特定用途に特化した製品が求められるB2B市場ならば、高精細の価値をきちんと理解してもらえます

「家庭にも入る」55インチの8Kディスプレイ。元々はB2B用途を見込んで開発された

麻倉氏:ところが今回のデモで、浅田真央ちゃんのスケートやパナソニックが撮った着物の静止画、NHKが撮った女性の弦楽四重奏とか、さまざまな画を見てみると「55型の8Kって家庭に凄く良いな」という感じがしました。解像感に関しても、ある程度近づいて見ると、やっぱり8Kの解像感がしっかり出ているんですね。今後フルスペックの8Kになると、8Kそのものの良さがもっとブーストアップされるでしょう。それが55型という親しみやすい、家庭に入りやすいサイズになると「これはひょっとして、パナソニックは来年には55型8Kを、家庭用SHVテレビとして売りだす方向なのではないか」という予感もします。作った目的とは違うB2Cとして、展示しているような雰囲気が非常に濃いですね。そういう意味では、新しい8Kの展開として予感されました。

――次回はレーザーバックライトテレビやホログラムメモリーなどといった、次世代のスタンダードとなる技術を取り上げます

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