ここからは、具体的に作品を見ながらデザインの詳細について聞いていく。取り上げるのは、2010年に放送されたGAINAXのアニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」(パンティ アンド ストッキング ウィズ ガーターベルト、以下パンスト)。米国カートゥーンのような独特な作画、演出と、ギリギリの下ネタを盛り込んだ意欲的な作品で、團さん自身も「ポップでカラフルな作品はあまり経験がなかったので当初は不安でした」と明かしている。
しかし、結果としてお気に入りの1つとなった。その過程を聞いた。
──(聞き手、ITmedia村上) ロゴ、宣伝ポスター、ムック、コラボ商品などさまざまなデザインを担当されていますが、今回はBD/DVDパッケージデザインについてお聞きします。ずばり、コンセプトは何でしょうか。
團さん 「かわいく、派手に、エロく」を心がけました。下ネタが多めの作品ですが、いろんな人が手に取りやすいように下品とかわいいの間を狙いました。
── デザインというのは、すぐに思い浮かぶものなんですか。
團さん パンストはだいぶ悩みました。悩みすぎてよく分からなくなってしまったので、一周して最後は「自分がかわいいと思うものにしよう!」と決めました。
── ポップで派手な色使いが特徴的ですが、何か参考にしたものなどはありますか。
團さん 薬局で見た女性向けシャンプー&リンスセットと、アメコミを参考にしました。
── シャンプーですか?
團さん はい。色々悩んで散歩をしているときに入った薬局で見つけたのですが、普通シャンプーってナチュラルな色使いなのに、その商品はピンクと黒で配色していて、かわいさ、怪しさ、毒々しさ、エロさのバランスがいいなと。
── 何気ない日常からデザインのヒントを得るんですね。
團さん そうですね。あと、パンストのポップなかわいさは、アメコミ特有の印刷の粗さ、版ズレで起きる線のブレ、ドット表現などが関係していると思い、それを取り入れました。
── キャラにドットを重ねたり、体の線がブレたりしている部分ですね。結構こうやって遊びを取り入れるんですか?
團さん 元のイラストをどこまで加工するかは、いつも悩むところです。イラストレーターさんのファンが納得いくものになるか、加工しすぎて本来の絵が分かりにくくなっていないかなどは気にします。
パンストの場合は、元絵をBDやDVD自体に印刷することでその問題を解決しているので、遊び心90%ぐらいの気持ちでやれました(笑)。
── デザインする上で必ずこれだけは意識する、というものはありますか。
團さん 「作家さんの世界観をファンに届けること」が大前提で、あと作品の世界を表現するためのセールスポイントを必ず1つは入れるようにしています。
── パンストの場合はどこでしょうか。
團さん 色です! 私は蛍光ピンクが好きなんですけど、それでかわいさやポップさを表現できたらなと。DVDのパッケージって大体4色刷りなんですけど、蛍光ピンクを使わせてほしいと頼みましたし、海外の玩具みたいなビカッとした感じや配色を出そうとしていました。
── ビカッとした感じというのは。
團さん うーん……言葉で説明するのは難しいです(笑)。
── デザインってフォントにこだわる人が多いのかなという印象がありましたが、團さんの場合は色なんですね。
團さん そうですね、以前デザイナーの師匠であるシイバミツヲさんに、私のデザインの特徴は色に出ると指摘を受けたこともあるくらいなので。もちろん、他の色々な部分にもこだわっていますが。
── ロゴの形も面白いですよね。
團さん ロゴにパンティーを取り入れた下品さは気に入ってます(笑)。コンペで悩んでいたとき、自然とYの字がパンティーに見えてきて、「よーし、入れてやれ!」と思い切って組み込みました。
── 結果、作品の世界観とすごくマッチしてますよね。
團さん パンストは、制作しているGAINAXスタッフ自体にファンがいたり、イベントの数が多かったりしたこともあり、ファンの声が届きやすかった気がします。「アイテムとして手元に置いておきたい」「作品の世界と合っている」などの声を聞くと、すごくうれしいです。
── 作家やイラストレーターなどと比べると、まだまだ裏方のイメージが強いですもんね。
團さん でも最近アニメ、コミック、ラノベ好きの人たちでデザインに興味を持っている人が増えているように感じます。基本的には裏方の仕事ですが、そうやって言及してもらえるのもうれしいです。
普段はあまり意識することはないが、人気作品たちの世界観を形作る上でデザインは欠かせない要素だ。ラノベの場合は、表紙を開いて帯を取るとデザイナーの署名が入っていることが多い。
書店でラノベやコミックを手に取ったとき、アニメのBD/DVDを購入したときなど、「これはどんな意図でデザインされたものだろう」と、タイトルロゴや配色の裏側に思いを巡らしてみてはいかがだろうか。また違った視点でお気に入りの作品を楽しめるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR