いま私の手元には1960年に出された『現代日本の底辺』という叢書があります。その「第3巻不安定就労者」には、劣悪な環境(それこそブラック企業だらけ)で働く人たちの辛い胸の内が綴られています。
住み込みで働く店員は、その店の経営者と家族とともに食事を取るのですが、自分がその場に顔を出すと経営者は卵や肉を隠してしまって食べさせてくれない、自分だって食べたいし、食べないと仕事のやる気など出ないと嘆く。ある店員は用意された下宿が狭過ぎて、夜中にトイレに行くために起きた別の人に下腹部を踏まれて膀胱が破裂したという事件が起きたとこぼしています。価格競争が激しい業界に勤めている人は、ノルマがキツ過ぎて、入社しても三日と経たずに辞めていく人が後を絶たないと、今の離職率問題どころではない惨状をぼやきます。
もちろん、この書籍がある種の「問題をクローズアップ」しているにすぎないモノだということは承知していますが、それを踏まえても、たった50年ほど前の日本の労働環境の底辺は、こういうこともあったのだろうと容易に推測できます。なぜそれが改善されたのか、改めてそれを考えてみてほしいのです。モラルだけではとても無理でしょう。それらの条件を改善してくれたのは、公のルールができたからに他ならない。昔はもっとキツかった、甘いことを言うなと、武勇伝を語っていては「いつか来た道」を、またたどってしまうことも十分に考えられるのです。
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