国内メーカーを取りまく三重苦──携帯電話市場はいつ回復する?:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
2009年上期の端末出荷台数が、2000年以降の上期実績としては過去最低を更新した。端末市場の「冬の時代」はいつまで続くのだろうか。
2009年下期から2010年は「需要回復」?
国内市場の今後を見ると、年間販売台数がMNP前後の5000万台規模にまで一気に回復することは考えにくい。しかし、中期的に見れば、端末需要は回復し、市場は“雪解け”を迎えそうだ。
その最初の動きが出るのが、2009年下期から2010年上期。すなわち、今年の冬商戦と来年の春商戦だ。
前述のとおり、今の「端末販売不況」は、ドコモの2年縛りによる影響が大きい。しかし、裏を返せばそれは、最初の2年縛りが解ける今冬から来春にかけてキャリア間の競争が激化し、それによって端末販売が増加する可能性が高いとも考えられる。実際、2年利用契約割引で「満期」が出始めた2009年9月はドコモのMNP流出が増えて、これまで鉄壁だったドコモの解約率が上昇している。
筆者は、このキャリア間競争による“端末市場の活性化”で鍵を握っているのが、KDDI(au)だと見ている。auは今回、販売価格を抑えられる量販モデルで魅力的な端末を取りそろえており、これまでの流通在庫も抑えている。そのため冬商戦・春商戦では、これら新端末の店頭販売価格で積極的に攻勢をかけることになるだろう。
一方、防衛戦となるドコモは、継続的な収益に悪影響を及ぼす利用料金値下げには極めて慎重な姿勢だ。そのため夏に実施された「N-03A」の“特別キャンペーン”のように、端末価格値下げによる買い換え促進で、ユーザーを再び2年の利用契約割引・割賦払いで囲い込もうとするだろう。au、そしてこれから発表されるソフトバンクモバイルの量販モデルの競争力が高ければ高いほど、ドコモも端末販売価格の値下げと拡販に注力しなければならなくなり、結果として端末市場は活性化することになるのだ。
そして、2010年以降を見据えると、「巻き取り需要」と「スマートフォン需要」が、メーカーにとって重要になる。
まず前者の巻き取り需要とは、ドコモやソフトバンクモバイルのPDC(第2世代)サービス終了やauの新800MHz帯への移行を前にした旧機種からの新機種への買い換え需要のこと。とりわけドコモとソフトバンクモバイルは2Gユーザーの3Gへの移行が急務であり、ここには500万台以上の潜在需要が発生する。特にドコモのムーバユーザーの中でも数の多い50〜60代の層に向けた、シンプルで使いやすく、割安なモデルの重要性は一時的ではあるが高くなる。
後者のスマートフォン需要は、今のところiPhoneの1人勝ちという状況だ。それは2010年も継続するだろう。しかし、国内メーカーも、これまでのハイエンドモデル市場が縮小・ニッチ化する中で、スマートフォン市場への本格進出は避けては通れない道になる。日本のメーカー各社は、Appleのようにソフトウェアからサービス開発、コンテンツ/アプリの提供・決済まで一手に引き受けるビジネスモデルにはまだあまり積極的な姿勢は見せていない。
そのため一般ユーザーに売れるスマートフォンを作るために必須となる、サービスやアプリ/コンテンツの利用環境はキャリア主導で構築し、メーカーはAndroidやWiindows MobileなどオープンOSをカスタマイズしてそれに対応する。そうしたカスタマイズ型スマートフォンで、iPhoneに対抗しうるような革新的・魅力的なモデルが作れるかが、日本メーカー各社の試金石になる。
このように2009年から2010年後半は、端末出荷台数が好転する要素が多く存在する。しかし、そこですべてのメーカーが業績を回復できるかというと、それは難しいだろう。なぜなら、今後増えるのは量販モデルやシンプルモデルが中心であり、そこでの収益改善には「規模の拡大による効率化」が必要だからだ。また、「iPhone対抗が可能なスマートフォン開発」や「LTE対応端末への投資」でも、開発規模と販売規模が必要だ。2010年にはNECとカシオ日立が事業統合したNECカシオ モバイルコミュニケーションズが設立されるが、同様のメーカー再編はまだ続くだろう。
これから始まる需要回復期に体力をつけて、その力で海外市場に進出の橋頭堡を築く。それができるかどうかが、国内メーカーの命運を分けそうだ。
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