電波は本当に届くのか? 対応端末は?――“1枠”をめぐる論点:携帯端末向けマルチメディア放送の公開説明会(第3回)
携帯端末向けマルチメディア放送の免許割り当てに向けた検討が進められている。9月3日に総務省が開催した第3回の公開説明会では、mmbiとMJPが両陣営の疑問点を指摘。電波や端末、料金などについて、さらに踏み込んだ議論が繰り広げられた。
総務省が9月3日、携帯端末向けマルチメディア放送の特定基地局開設計画に関する第3回の公開説明会を開催した。今回の説明会では、第1回(6月25日開催)と第2回(7月27日開催)の説明会を受け、マルチメディア放送(以下、mmbi)とメディアフロージャパン企画(以下、MJP)が互いに質疑応答を行った。
マルチメディア放送の受託放送事業者の1枠は、2社が提出した開設計画案について、総務省が電波監理審議会へ諮問し、答申を得て決定する。総務省は8月17日に電波監理審議会に諮問し、9月3日には電波監理審議会がmmbiとMJPに対して非公開のヒアリングを行った。今回の説明会は電波監理審議会の要請を受けて実施されたもので、電波監理審議会委員も傍聴者として出席していた。
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スカイツリーでビル陰までカバーできる――mmbi
まずはMJP代表取締役社長の増田和彦氏がmmbiに対し、地上高1.5メートルにおける電波伝搬試験の実施時期と期間を質問。これはMJPが8月27日に発表したmmbiへの質問事項で挙がった、基地局整備計画の精度に関連するもの。質問には、mmbiが第2回の説明会で提示した、東京スカイツリーからの電界強度図ではビル陰はカバーできないのではないか、という旨のコメントが記載されている。
mmbi シニアマネジャーの近藤恭行氏は、「2004年の2月から適宜試験を行っている。1.5メートル高での実測はしているが、精度を測れるものではない」と回答。また、200メートルを超える高層ビルについては個別に評価し、ビルの情報を考慮したシミュレーションを実施しているという。「実測データに基づいたビルの遮蔽障害を用いて評価したところ、遮蔽の影響はほとんど発生しないと考えている。仮に発生しても、障害距離が数10メートル程度なので、狭いエリアについては安価なギャップフィラーで対応できる」(近藤氏)
これに対し増田氏は、デジタルラジオの“実測データ”に基づくシミュレーションを例に出し、デジタルラジオの場合はビル陰が遮断されているので、mmbiのシミュレーションは実測データと大きく違っているのでは、と疑問を投げかけた。すると近藤氏は「mmbiで(基地局設置に)使用するスカイツリーのアンテナ高は、(MJPが使用する)東京タワーの倍以上。ビルの裏側にも十分な電界強度が得られる。スカイツリーなら、ビル陰は発生しないことを確認している」と回答した。
増田氏は「陰ができるかどうかは距離が関係する。新宿都庁は約7キロメートル、横浜のランドマークは約32キロメートルのビル陰ができる。この点は検証しているのか」と質問すると、近藤氏は「都心周辺の建物はすべてスカイツリーから検証している」と説明。「新宿や六本木の200メートル級のビルはすべて検証している。横浜のランドマークは長距離なので、若干ビル陰は発生するが、個別に基地局を打つ計画をしている」とし、電波の遮断を最小限に抑えられることを強調した。
ドコモはMediaFLO対応端末を投入しない?
MJPが受託放送事業者となった場合、MJPの開設計画の事業性の低さから、国内市場での実績が証明されない限り、ドコモが対応端末を供給しない意向を表明している。したがってMJPが提示した対応端末の数は、auを除くと根拠のな数値なのでは、とmmbi 取締役経営企画部長の石川昌行氏が質問した。
増田氏は「今後ますますスマートフォンやiPadのような新しいデバイス、SIMフリー端末が増加する中で、1事業者の支配が及ぶ範囲がどれくらいになるのかは分からない。審査段階で競合方式に端末を対応させない言及をするのは、いかがなものかと感じている」とドコモの考えに疑問を抱いている様子。ただ、「“魅力的なサービス”が実績という意味なら、未来永劫対応させないと言っているわけではないと理解している」との見解も示し、「ソフトバンクもmmbiを支持しているが、同社からはMediaFLOに対応させないという回答は得ていない。お客様が希望するサービスが立ち上がれば、対応するのが自然な流れでは」と話した。
NTTドコモ 代表取締役の辻村清行氏は説明会後の囲み取材で、「未来永劫、MediaFLOに対応させないと言っているわけではない。リスクが高く、うまく立ち上がらない方式(MediaFLO)を端末に入れて端末価格を高めることは、お客様にとって適切ではない。状況を見ながら対応を決めていきたい」と話した。裏を返せば、ドコモがMediaFLOに実績を見出せば端末を対応させることになる。ただ、何を実績と見なすのかは不透明な印象だった。
重要なのは設備コストだけではない――増田氏
石川氏はコンテンツの料金について「500~800円の規模になるとおっしゃっていたが、必要なユーザー数をどれだけ考えているか」とMJPに質問。mmbi陣営はかねてから、設備投資額や委託放送事業者向けの料金がMJPよりも安いことを受け、ユーザーに安価な料金でコンテンツを提供できることを強調してきた。具体的には、ドコモの動画サービス「BeeTV」の月額315円程度の料金が目安になるとしてきた。
増田氏はこの点について、設備だけでなく、帯域やコンテンツの制作費も含めたトータルな事業性を議論すべきだと主張。「我々は調査結果を踏まえ、コンテンツの価格は500~800円という数字を示した。1000円払っても見たいという意見も挙がっており、さまざまな価格帯が含まれることで成り立つ」とみており、必ずしも300円程度にする必要はないという姿勢を示した。
「作り上げたコンテンツを届けるために必要な伝送帯域や、コンテンツ制作費が重要になる。これらを総合的に考えて委託事業者の収支が成り立つ。BeeTVのような動画コンテンツは多くの帯域を使うし、制作費もかかるのでは」(増田氏)
FLO TVの撤退=サービス終了ではない
辻村氏は、MediaFLO方式の商用サービスが展開されている地域は米国のみ、サービス開始後の3年間で多くの契約が取れていないこと、QualcommがFLO TV事業を売却することなどに言及し、「“そういう方式”を日本に持ち込もうとしている」と疑問を投げかけた。これに対し増田氏は「技術方式を広げるために、他社に出資する形で最終的に撤退することは、よくある手法の1つだと認識している。QualcommがFLO TVから撤退しても、技術開発、グローバル展開などは継続して行われる」と答えた。
KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏は、「FLO TVが提供しているコンテンツは、(日本でいう)ワンセグの有料放送のみ。これにお客さんが食いついていないのは事実だと思う」と認めた上で、「むしろ中身の問題だ」とし、米国と日本におけるビジネスモデルの違いを強調した。
辻村氏は「FLO TV事業が売却されることになった場合、日本でもQualcommがMediaFLO事業から撤退することもあり得るのでは」と問いかけると「それは懸念ではない」と小野寺氏は説明。「WiMAXにはインテルが出資しているが、皆さんある時点で撤退することは考えているはず。投資としてみるのか、継続的なオペレーションとしてみるのかという違いに過ぎない。MJPに参入したいという株主さんもいらっしゃる。今の資本構成が未来永劫続くとは思っていないし、Qualcommが抜けても大きな影響はない」とみている。
MJP 取締役の山田純氏は「米国でFLO TVをスピンオフしても、継続して事業をやってもらうことが前提。明日にでも米国からFLO TVがなくなるようなコメントは不適切だ」と反論。「Qualcommの本業は、技術開発と半導体の生産。MediaFLOはその中核に位置付けているので、それを辞めることは、会社の事業そのものを辞めることに等しい」と話し、QualcommがMediaFLO事業を軽視しているわけではないことを強調した。
今回の説明会は、第1回と第2回の説明に基づく質疑応答が主な内容だったこともあり、受託放送事業者決定の決め手になりうる新しい情報や見解は得られなかったというのが正直なところ。両陣営の説明も技術や事業性に関するものがほとんどで、「マルチメディア放送は何が楽しく」「ユーザーにどんなメリットがあるのか」といった視点の議論が乏しかったとも感じた。また、8月3日に民主党の情報通信議員連盟が開催した勉強会で挙がった「受託放送事業者は2社にすべき」という意見が議論されることもなかった。
今回の説明会を傍聴した電波監理審議会のメンバーは、何を感じたのか。技術や事業性はもちろんだが、ユーザー目線でも熟慮して答を出してほしい。
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