作品名 | 気球クラブ、その後 |
監督 | 園子温 |
制作年・製作国 | 2006年日本作品 |
今回ご紹介するのは、荒井由実の名曲『翳りゆく部屋』をモチーフに、過ぎ去った青春の日々に思いを馳せる『気球クラブ、その後』。青春の終わりは、携帯電話が告げたのでした……。以下、内容に触れますので、これから見る予定の方は注意して下さい。
ある夏の日、二郎(深水元基)はガールフレンドのみどり(川村ゆきえ)を連れて、“気球クラブ”にやって来ました。リーダー村上(長谷川朝晴)の自宅兼部室は若者たちのたまり場。気球クラブに入れば、何か楽しそうなことが起こりそうな予感がして、気球にはさほど興味がなかったにも関わらず、二郎は入会します。
村上は根っからの気球好きで、部屋の中にもいくつかの風船が浮いており、話す内容も気球のことばかり。そんな村上を優しく見つめる女性・美津子(永作博美)に、二郎は釘付けになります。大勢の仲間が騒ぐ飲み会の席で、何度となく目が合ってしまう二郎と美津子。二郎は思い切って美津子と言葉を交わしますがぎこちなく、美津子の心には村上がいることを悟ります。
気球クラブに入って、実際に二郎が活動したのはわずか数カ月。村上が乗る気球が飛ぶのを見たのは一度だけ。それから他のことに興味は移り、気球クラブからは足が遠のいて数年が過ぎ、二郎がほとんど忘れかけていた頃、携帯電話に気球クラブの仲間から電話がかかってきました。
「村上さん、事故ったって」
「えっ、村上さん?」
数年ぶりに聞く名前に驚く二郎。
「気球クラブの村上さんだよ。お前どれくらい知ってる?」
クラブに通っていたのは、たった数カ月。
「俺たち、あんま村上さんとは関係ないよな」
思わず、そんな言葉が口に出てしまいました。
二郎はみどりに村上の事故のことを伝えます。みどりとはつかず離れずの関係が続いており、村上の名前を出すと、みどりは懐かしく思い出したようでした。みどりからまた別の仲間へ、村上の事故の連絡は、携帯電話でどんどん回っていきました。
「村上さんのこと、連絡しておいて」
そんな中、みどりは二郎に尋ねます。
「美津子さんの連絡先、知ってる?」
村上の恋人だった美津子だけ、連絡がつかないというのです。
「みんな、美津子さん探してるみたい」
気球クラブの連絡網で、美津子の電話番号も探っていくのですが、結局分からず……。そして、村上が運ばれたという病院へ向かうことになった仲間達。その途中、村上が死んだという連絡がまた携帯電話の連絡網で駆け巡ります。皮肉にも村上の死がきっかけとなって、ずっとバラバラだった気球クラブのメンバーが集まることになったのでした。
あの頃、気球を飛ばした後のように酒を買い込み、村上を偲ぶ宴会をスタートさせる二郎や仲間たち。陽気にバカ騒ぎをしますが、誰かがふとつぶやきます。
「携帯でつながっているだけなのかな、みんなと」
何年も会っていなかったメンバーと連絡がつき、こうして集まることができたのは、携帯電話のメモリのおかげ。どんな時間を過ごしてきたのか、気球クラブがどうなったのか、誰もわからなかったのです。村上の死を以って、気球クラブを正式に解散しようと誰かが言い出します。
「もう二度と会うこともないでしょう」
その言葉に逆らう者はいませんでした。気球クラブの解散式、それはそれぞれの携帯電話から、気球クラブのメンバーのメモリを消すこと。全員の携帯番号とアドレスを消し終わった頃、二郎の青春も終わりを告げたのでした。連絡がつかなかった美津子だけ、一足先に青春を終わらせていたのでしょうか……。
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