「駅すぱあと」がロボットに? エキュート秋葉原の「ugo Pro」を支える通信技術とUXの裏側

» 2026年08月29日 10時00分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

 2025年4月にオープンしたJR秋葉原駅のエキナカ施設「エキュート秋葉原」に、商業施設初となる案内キャストとしてロボット「ugo Pro」が導入された。

 一見するとロボット業界のニュースだ。ugoは遠隔操作とAIによる自動制御を融合したハイブリッド型の業務DXロボットとして、これまで警備や点検の現場で活躍してきた。しかし、実はモバイルユーザーにおなじみの経路検索システム「駅すぱあと」と連携し、高度な案内機能を提供している。

 エキュート秋葉原は全館キャッシュレス化や最新テクノロジーの導入を進めており、接客を担う存在として白羽の矢が立った。誰もがスマートフォンを持ち、手元のアプリで経路を検索できる現代において、なぜ経路検索システムがわざわざロボットという物理的な身体を得て街に存在するのだろうか? その疑問と最新の通信技術の裏側について、ugoで取締役CSO(Chief Strategy Officer=最高戦略責任)を務める羽田卓生氏に取材を行った。

エキュート秋葉原 ugo JR秋葉原駅のエキナカ商業施設であるエキュート秋葉原に導入された案内ロボットのugoイメージ画像。商業施設初の案内キャストとして接客業務を担い、次世代のUXを提供する存在だ(出典:2025年2月5日発出のニュースリリース)
ugo ugoPro 遠隔操作とAI自動制御を融合したフルスペックのハイブリッド型業務DXロボットであるugo Pro。警備や点検だけでなく、高度な自然言語処理や会話機能を備えることで施設での案内業務もこなす能力を持つ(出典:ugo公式サイト)

ロボットに聞いた駅すぱあとの検索結果が、スマホへ引き継がれる

 7月1日から3日に東京ビッグサイトで開催された展示会「第38回 ものづくりワールド」において、同社は音声で行き先を問いかけると駅すぱあとの情報を参照して経路を表示し、音声で案内するデモンストレーションを披露した。ヴァル研究所が長年提供してきた経路検索アプリは、全国の公共交通機関データを網羅している。

 ロボットが音声と画面で案内して完結するだけでも目を引くが、モバイルの観点で特に注目すべきはユーザーのスマートフォンへのシームレスな情報の引き継ぎだ。羽田氏によると、サイネージ画面にQRコードを表示し、それをスマートフォンで読み込むと駅すぱあとの検索結果画面が手元で開く仕組みが実現しているという。

 ロボットの大きな画面と音声による分かりやすい対話から入り、最終的には持ち歩ける個人のスマートフォン画面へと情報が移る。この見事な連携体験は、エキュート秋葉原に限らずホテルやリテール施設、オフィスビルなど複数の現場で既に活用されている。

ヴァル研究所 駅すぱあと 多くのモバイルユーザーに親しまれているヴァル研究所の経路検索アプリである駅すぱあとのアプリ配信ページ。全国の公共交通機関データを網羅しており、今回の案内ロボットと連携して高度な経路案内サービスを実現している(出典:Google Play)
駅すぱあと QRコード ロボットのサイネージに表示される駅すぱあとの経路検索結果画面。右下に配置されたQRコードをユーザー自身のスマートフォンで読み取ることで、案内された情報をそのまま手元に引き継いで持ち歩ける(出典:ugo羽田氏提供の画像)

現場ではモバイルルーターと通信量無制限プランを活用

 こうした高度な連携を実現する裏側には、通信面での工夫が隠されている。ugo ProはLLM(大規模言語モデル)を活用した自然言語処理を用いて柔軟な自動対話を行うが、さらにWebRTCを使った会話機能も備えており、通信量は非常に多くなる。人が密集し、電波が不安定になりがちな駅構内などの環境で、どうやってレスポンスを維持しているのだろうか。

 羽田氏は「現場ではモバイルルーターと通信量無制限プランを活用し、導入前に周辺の通信状況を調査した上で最適なキャリアを選定しています。また、通信が不安定な状態でも応答までの時間を短くするため、応答文を短く区切って発話させる、短い返事やあいさつはあらかじめ音声をキャッシュしてすぐに再生できるようにする、といった工夫をしています」と語る。電波調査に基づくキャリア選定というインフラ対策と、エッジ側へのキャッシュ保持というソフトウェア対策が、遅延を感じさせない快適なユーザー体験を支えているのだ。

ロボットは単なる検索端末ではなく、人格をまとったキャスト

 手元のスマートフォンでも、多言語に対応した翻訳機能や即時通訳といった機能を使えば、訪日外国人へスムーズなコミュニケーションを提供できるが、あえてロボットを頼る理由は何だろうか。実はスマートフォン以上の価値が存在するそうだ。

 この点について、羽田氏はロボットならではの強みを3点挙げる。

 1つ目は公式性だ。「エキュート秋葉原はJR東グループの施設です。駅業務と同等の情報として乗換案内を参照する必要があります」と羽田氏は説明する。

 2つ目は信頼の蓄積だ。ロボットは単なる検索端末ではなく、人格をまとったキャストとして現場に立つ。「誰もが最初に聞く乗り換えを外さないから信頼が積み上がり、店舗案内やおすすめ、雑談まで会話が広がります。乗り換え案内は商品ではなく、信頼の土台であり会話の入口です」と羽田氏は語る。

 そして3つ目は入口が生む価値だ。「乗り換えは駅にいる誰もが持つ、最もハードルの低い一言です。ここから会話が始まります。ugoが一度きりの話題で終わらず、駅に根づいていく存在になれたらと考えています。人格をまとい、成長し続けられることが、スマートフォンとは違うugoらしさだと感じています」と羽田氏。

 これまでスマートフォンの中で経路を表示するだけだった駅すぱあとが、ugoというロボットになって人々の前に現れた。ロボットが確実な案内を積み重ねて利用者との間に信頼関係を築くことで、単なる道案内は店舗のおすすめや雑談といった豊かな対話へと発展している。最新の通信技術に支えられたこの新しい体験は、今後さらに多くの場所へ導入され、私たちの街をより便利で楽しいものに変えていくだろう。

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