電車にスマホ貼り付け撮影した走行動画、SNSで炎上 重大事故の恐れ、法的リスクも

» 2026年08月29日 16時15分 公開
[金子麟太郎,ITmedia]

 地下鉄の車体にスマートフォンを固定し、走行中の様子を撮影した動画が動画投稿アプリに公開され、SNS上で大きな批判を集めている。問題となっている動画は、東京地下鉄が運営する「日比谷線」の「小伝馬町駅」で撮影されたと思われる。

撮影 危険行為 SNS 地下鉄の車体にスマートフォンを粘着テープで固定し走行中の様子を撮影した動画がSNS上で批判を集めている

 動画には、日比谷線車両の側面へ粘着テープを用いてスマートフォンを固定し、列車がホームを発車して動き出すと同時に、撮影者がホーム上を全力で疾走しながら並走する様子が映っていた。さらに、別の人物があらかじめ該当の列車内に乗り込んでおり、隣の駅に到着した際に車外からスマートフォンを回収した。

 投稿された動画には着用している商品の名称や販売価格が記載されており、投稿者はブランドの宣伝目的で動画を企画した。動画は「TikTok」などのSNSに投稿された後、その動画がXで拡散され炎上している。列車からガラス越しに撮影する動画とは異なり、外から直接スマートフォンのカメラで撮影し、臨場感のある動画を配信したいという動機だろうが、言うまでもなく大変危険な行為となる。

走行中の脱落が引き起こす物理的事故と運行への影響

 走行中の電車は強い風圧や激しい振動を受けるため、簡易的なテープ留めでは走行途中に端末が脱落する危険性が高い。営業中の地下区間などで端末が剥がれ落ちた場合、複数の重大な事故につながる恐れが存在する。

 まず、ホームで列車を待つ乗客や対向列車に向けて端末が飛ばされたり、何かにぶつかり飛散した場合、乗客に大けがを負わせる直接的な危険が生じる。また、車体から脱落した端末が線路や床下機器の隙間に挟まった場合、機器の破損や発火、さらには電車の脱線を引き起こす要因となる。

 仮に重大な事故に至らない場合であっても、線路内に異物が落下した際には安全確認のために列車を緊急停止させる必要があり、秒単位の精密なスケジュールで動く日本の都市鉄道において、全線の運転見合わせやダイヤの大幅な乱れが生じれば、過密な運行網全体へ深刻な支障を及ぼす。ホーム上を撮影者が全力疾走する行為自体も、他の乗客との接触や転倒事故を引き起こす直接的な危険行為に該当する。

撮影 危険行為 SNS 走行中の電車に固定したスマートフォンは、風圧や振動で脱落する危険性が高い。脱落した端末がホームの乗客や対向列車に飛散すれば大けがを負わせる恐れがあり、床下機器に挟まれば破損や発火、脱線事故につながる危険もある。また、事故に至らなくても異物確認のための緊急停止や点検が生じ、都市鉄道のダイヤを大幅に乱して過密な運行網へ深刻な支障を及ぼす。ホーム上の疾走行為も接触事故を招く危険な行為だ(出典:東京地下鉄のニュースリリース=日比谷線新型車両13000系)

安全意識の欠如や法的責任を問う――SNS上で批判目立つ

 今回の事案に対して、SNS上ではユーザーから安全意識の欠如や法的責任を問う声が相次いで投稿された。

 ユーザーは、端末の接着状態にかかわらず無許可で公共物に突起物を貼り付ける行為そのものを問題視した。走行中に端末が脱落してホームの乗客へ直撃する危険性や、地下トンネル内での発火リスクを危惧する投稿も相次いだ。

 また、厳格な時間管理を行う日本の鉄道システムにおいて、こうした行為が膨大な運行損害を引き起こす点に触れ、海外の地下鉄事情と比較しながら責任の重さを警告するユーザーも現れた。法的観点からは、車体の美観損壊や塗膜損傷による「器物損壊罪」、列車の緊急停車に伴う「威力業務妨害罪」、さらには「列車往来妨害罪」の適用を主張する声や、110番通報による警察への通報を促す声が投稿された。

 一方で、縦位置画面に慣れた若い世代の発想だと捉え、横位置で撮影すれば異なる構図になったのではないかという動画表現手法への言及も一部で存在した。しかし、大部分の意見は再生数や話題性を優先する姿勢を厳しく非難するものだ。

想定される法的罰則と膨大な損害賠償請求のリスク

 車体にスマートフォンを貼付して走らせ、走行中に落下させて緊急停車や遅延を引き起こす行為は、単なるマナー違反にとどまらず犯罪行為に該当する可能性がある。

 車体に粘着剤を付着させたり美観を損ねたりした場合は器物損壊罪に問われる。また、落下の安全確認や設備点検のために電車を緊急停止させ、運行業務を妨害した場合には威力業務妨害罪が成立する。

 万が一、落下した端末によって床下機器が損傷したり脱線事故が生じたりした場合には、列車往来妨害罪などのより重い刑事罰が適用され、懲役刑や罰金刑を受けるリスクを負う。

 刑事上の処罰にとどまらず、電車の遅延や停止によって生じた損害に対して、鉄道会社から不法行為に基づく多額の民事上の損害賠償を請求される可能性も高い。

過激化する動画の撮影・拡散の手法

 閲覧数や認知度の獲得を最優先し、危険行為や倫理を無視した動画投稿を行う手法は「バズれば勝ち」という思惑のもとで拡大してきた。しかし、今回の事案では大きな注目を集めたものの、安全運行を脅かす行為として猛烈な批判を招いた。

 公共交通機関の安全を脅かして得た話題性は、企業の信用や社会的評価を根底から失わせる結果となる。社会規範や法令の順守を欠いた宣伝行為が引き起こすリスクについて、多くの人が厳しい視線を注いでいる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年10月14日 更新
  1. スマホの「実質価格」高騰の恐れ、iPhone 18 Proは2倍高く? 総務省の残価設定ルール厳格化は“誰のため”か (2026年10月10日)
  2. ダイソーで1100円の「GaN USB充電器」は折り畳みプラグで外出用に持ち歩きやすい 45W出力対応でPCでも使える (2026年10月10日)
  3. 個人情報の流出にユーザーはどう備える? 乗っ取りやクレカ不正利用を防ぐ「3段階」の対策ガイド (2026年10月12日)
  4. 楽天モバイル、KDDIローミングが大幅に縮小――ユーザーに対する説明責任はないのか (2026年10月11日)
  5. Google、画面付きトラッカー「Google Fitbit Edge」発表 日本では2万6800円で予約開始 バッテリー交換にも対応 (2026年10月13日)
  6. JR東日本「分かりにくい」新幹線券売機を改善へ なぜ、スマホではなく「駅での最短1分購入」を実現? (2026年07月04日)
  7. NTTドコモ、新幹線ホームでの動画視聴を快適に JR名古屋駅の通信品質、どう改善? (2026年10月12日)
  8. ダイソーで1100円のノイキャンイヤフォン「TWS009」を試す 騒音カットの効果は実感も電池持ちに課題か (2026年10月09日)
  9. 10月1日から楽天モバイルの「au 4G LTEエリアローミング」が縮小も意外と残っている件 (2026年10月10日)
  10. ファーウェイはなぜ「24時間測り続けること」にこだわるのか ウェアラブル開発責任者が語る医療機器との違い (2026年10月13日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー