AndroidはiPhoneに対抗するべきではない:スマートフォンオブザイヤー2010特別対談(3/3 ページ)
2010年1月から、審査会が開かれた12月中旬までに発売されたスマートフォンを一堂に会し、2010年を代表するスマートフォン、「スマートフォンオブザイヤー2010」を選出した。そのプロセスで交わされた議論と提言をお届けする。
神尾 遠藤さんのおっしゃったAndroidの可能性は、すごく感じるんです。ただ、それが今のマスユーザーに対して受け入れられるかというと、私は難しいと思っています。裏でいろんなものがつながっていくというのは、すごく可能性がある反面、一般ユーザーに分かりにくいですよね。たぶん、普通のケータイユーザーがギリギリ受け入れられるのが、スイッチ式なんですよ。iPhoneアプリでは、ソフトウェアと自分のやりたいことが1対1になっていて、関係性が簡潔。そうじゃないとマスユーザーは分からない。そもそも常駐ソフトという概念が普通のケータイユーザーには分からないと思います。
私はこれからのスマートフォンというものは、PCやインターネットが“使いこなせる人”をリテラシーの基準においてはダメだと思っています。もっと誰もが使えるものでないといけない。そう考えると、PCを使いこなせるレベルのリテラシーを前提にした今のAndroidの仕様はちょっと難しすぎると思うのです。
夏野 PCのユーザーでもなかなか使いこなせませんよ。
遠藤 それは、僕の説明がどうしても機能の話になったのがいけなくて、やりたいことは「これをそのまま人に伝えたい」とか、そういうある種メンタルなことですよね。要するに、いままでのアプリケーション・ベースド・コンピューティングから、アクティビティ・ベースド・コンピューティングにどうやったら近づけるか? それを実現するのにAndroidの持っている機能が必然的に必要になるということなんです。iPhoneでは、どうしてもエイヤ、エイヤという手順的になってしまう。そういうやり方も僕はあっていいと思うのですが、モバイルはもっと感覚的になっていくべきなんじゃないかと思っているんです。繰り返しになりますが、それがいま見てるデータをどこにでもシェアできる以外は、あまり生かされていないのが現状なんですが。
神尾 Appleは新しいといっておきながら、多くの人が受け入れられるようにつくっていますね。実はけっこう普通のことをやっている。
夏野 でも、それは日本だから思うことで、海外の人には驚きだったと思いますよ。スマートフォンの話をするとき、日本国内では「スマートフォン vs. ケータイ」みたいな言い方をするけれど、海外にいくと見方は「通信業界 vs. インターネット業界」です。
神尾 たぶん、iモードが出たときと同じくらいのインパクトですよ。
夏野 海外のユーザーは、iモードが出てきたときくらいのインパクトを受け止めているということを、日本にいるとちょっと間違えちゃいますよね。
遠藤 もともと、iPodというメディアマシンをAppleはやってきた。いろんなシードを拾って、いまは電話になったけれど、これからまたメディアマシンとして成長していくんではないかと思うんですよ。Androidは、やっぱり情報をさばいていくモバイル情報機器なんですね。メディアプレーヤーと情報機器だとやっぱり全然違っていて、Androidは効率を目指しているし、コミュニケーションスタイルの進化自体を目的にしている。iPhoneは、その点「こうしたら気持ちいいでしょ」ということを言い続けている。Androidは、オンっぽくて、iPhoneはオフっぽいところがあるでしょう。
夏野 Androidはバリューチェーン全体の1つの道具に過ぎないので、1つのバリューチェーンとして、オペレータでもメーカーでも誰でもいいんですけど、エコシステムをしっかり作らないとダメなものなんだ、という意識がまだ欠けていますよね。そういう意味でいうと、BlackBerryはメールのサービスをきちんと届けるという前提があってサービスが統一されている。でも、キャリアとメーカーが、Androidさえ載せればアプリも勝手に手に入って、エコシステムが勝手にでき上がるんじゃないかと誤解してやっているとすると、未来永劫iPhoneには勝てませんよね。「Androidベースで1つエコシステムを作るんだ」という壮大な目標を持ってほしいですね。
神尾 ケータイでは世界観もあったし、エコシステムも持っていたのに、そこからどうスマートフォンに移植していくかじゃなくて、単に端末を導入してしまった。そこがつくづく残念です。
夏野 違うものを導入するという発想になっていた。
神尾 世の中が騒ぎ出したから、とりあえず端末を手に入れて日本語化だけしましょう、みたいな話になっちゃった。これまでの世界観やエコシステムをどうしていくのか、どう合わせていくのか、という大きな戦略はなかったなあ、と思います。ちょっと慌ててやっている感じはしますよね。
夏野 とにかくiPhone対抗なんですよ。
ITmedia AndroidはiPhoneを目指してはダメだ、もっといろんな世界がある、ということですね。
夏野 iPhoneとAndroidは違うものとして、我々も認識していくべきだと思います。メーカーにとっても、iOSを自分で導入するという選択肢はないので、比べる意味もありません。Androidの中に独自の価値観を作っていくことと、僕はやっぱり従来のケータイとの融合をいち早く進めるべきだと思います。ケータイの中にAndroidを入れる。形は今のままでいい。
それから、2011年は台数ではAndroidの方が多くなる可能性があるけれど、それは何も意味していないということにも留意しておくべきだと思います。Android端末1機種ごとの台数とiPhone 1モデルの台数のどちらがたくさん出たか、という比較であるべきで、「Android vs. iPhone」みたいなことをいう意味が、来年はなくなるんじゃないかと思います。
神尾 次の世代のiPhoneが、iPhone 3GSと同じように、マイナーバージョンアップになるのか、それとも大きく変えるのかというのは2011年の注目ですね。個人的にはAndroidの進化がペースアップしているので、来年のiPhoneはフルモデルチェンジでさらにリードする方向に期待したい。
あと、もう1つ私が注目しているのは、NFC内蔵のスマートフォンがどうなるかです。
夏野 でも、NFCを搭載しても、使えるところがないですよね。Nokiaみたいな目にあいますよ。自分でやっていたから言うけれど、あれはさらにエコシステムの設計が難しい。そんな簡単じゃない。でも、Googleは結構本気です。
iPhoneとAndroidの一番の違いなんだけど、XperiaもGALAXY Sも僕は3時間で飽きちゃうんですよ。やることがなくなっちゃう。でも、iPhoneはずっと飽きない。つまりAndroidはアプリが面白くない。今はAndroidアプリが圧倒的に種類が少ないんですね。だから、来年はこの状態を解決してほしいですね。
神尾 確かにAndroidはせいぜいTwitter端末になりえるか、になっちゃう。iPhoneはゲームだけじゃなくて、普通のメディア機能がいいですね。
夏野 だから、接触時間が全然違うんです。そういうことを超えられるかどうかが、AndroidがどこまでiPhoneと同じような機能として戦えるかどうかの試金石で、それ以外だとしたら、ケータイの中に入っていくとか、形状が違うAndroidというのが流行らないと、ちょっとね。音楽データの扱いや転送のしやすさも、今のAndroidは全然ダメですよね。
神尾 今のAndroid端末におけるコンテンツ管理や利用は、普通の人にはハードルが高いです。音楽を買うのも、自分が持っている音楽ライブラリーを活用するのも、iPhone以外のものは全然スムーズじゃない。普通の人が使いにくいものになっていますね。この違いは大きいと思います。ケータイの世界でも、iモードは誰でも使えて、そこからコンテンツをみんな買っていたわけですが、そういった手軽さが今のAndroidにはない。パソコンやデジタルガジェットに詳しい人ならいいのかもしれませんが、このままでは多くのユーザーがハッピーになれません。そこが「誰でも使える・楽しめる」ことを目指して作られたiPhoneとの大きな差になっています。
ITmedia アプリを作っている開発者は、いろいろと制約があり審査を経る必要があるiPhoneより、自由度が高いAndroidに可能性を見いだしているんじゃないですか?
夏野 うん。でも僕は、それはから騒ぎだと思っています。だって、Androidは課金の仕組みが全然整っていないんですよ。テクノロジー的にオープンだとか、APIが多いとか、そういうことで騒いでいるのは2010年で終わり。2011年は、本当にお金になるの? ビジネスとして成り立つの? ということが問われる。開発者も、エコシステムがちゃんと整うかどうか、それに対してメーカーやキャリアがどういう協力をして、どういうエコシステムになるのか、という部分に着目していく必要があると思いますね。
じわじわと浸透し、デジタルオーディオプレーヤー市場で圧倒的シェアを築いたiPodのように、今やiPhoneは日本のケータイ市場において確固たる地位を確立した。多くのユーザーにとって、ケータイサイトが利用できない、おサイフケータイに対応していない、といった“差異”の部分よりも、iPhoneと、それを取り巻くエコシステムやサービスの魅力が勝ったことで、今や爆発的なまでの広がりを見せ、老若男女を問わず、iPhone 4は売れている。サービスや使い勝手の完成度の高さも、他のスマートフォンと比較して抜きん出ているという点に異論を挟む余地はないだろう。
Androidは、そのiPhoneに対抗するためのプラットフォームとして注目されることが多いが、文中でもあったように、クラウドとの親和性の高さ、アプリ間連携のしやすさなど、iPhoneとはまったく別な世界に強みを持つ。iPhoneを追いかけているのでは、いつまでもiPhoneの後塵を拝することになる。iPhoneでは実現できない製品やサービスこそが、Androidの目指すべき方向だ。その点、IS03が採ったような、日本市場を意識したカスタマイズは、1つのヒントとなるだろう。
2011年のスマートフォン市場は、次世代のiPhoneがどのような変化を見せるのか、そしてAndroidを用いる各陣営がどのようなエコシステムを作り上げるのかによって、大きく様相が変化しそうだ。そして、2010年のスマートフォンブームから大きく取り残されてしまったWindows Phoneが、Windows Phone 7の投入によってどう変わるかにも注目が集まる。2011年の年末に、スマートフォンオブザイヤーの栄冠を獲得するのは、どの陣営だろうか。
選考委員プロフィール:遠藤諭
株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長。元月刊アスキー編集長。1万人調査「MCS」(メディア&コンテンツサーベイ)を主軸に、ソーシャル・メディアやスマートフォンなどネット時代のライフスタイルについて分析、コンサルティングを行っている。アスキー総研: http://research.ascii.jp/、@hortense667
選考委員プロフィール:夏野剛
1997年にNTTドコモに入社し、榎啓一氏、松永真理氏らとiモードを立ち上げた。2005年ドコモ執行役員マルチメディアサービス部長。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、SBIホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、GREEの取締役を兼任。特別招聘教授を務める慶応大学政策メディア研究科では「ネットワーク産業論」をテーマに講義する。
選考委員プロフィール:神尾寿
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/ 交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。
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