「出版社や著作者は、Googleブック検索の和解案から離脱を」――98の中小出版社で構成する出版社団体・出版流通対策協議会がこう呼び掛けている。「和解は、著作者や出版社の利益にはならない」とし、和解案への参加を表明した出版社団体などを批判している。
出版流通対策協議会は、1979年に発足した組織。これまでに、再販制度を守るための活動や、零細出版社が受けている差別的取引を解消するための活動などを行ってきた。
同協議会は、米Googleがブック検索の「図書館プロジェクト」の一環として、書籍を無断でスキャンしたのは「日本の著作権法に違反した違法行為」と批判する。
Googleは、米国内で絶版状態の書籍のみスキャン・公開するとしているが、「公開書籍のリストを調べたところ、日本で出版中のものも数多く含まれている」と、高須次郎会長(緑風出版社長)は指摘。公開書籍のリストには加盟社が刊行中の書籍の9割が掲載されており、うち1割がスキャン済みという。
「Googleは、日本国内で流通している書籍をブック検索から除外することを検討している」という報道もあるが、同協議会は「700万冊もあるスキャン書籍の1つ1つを調べ、除外するのは難しいのでは」と懐疑的。「絶版の判断はGoogleに任せるのではなく、書籍の出版社が行うべき」と主張している。
このまま刊行書籍の多くがスキャン・公開されれば、「今後の書籍販売が極めて厳しくなる可能性がある」(高須会長)ため、和解への参加は「著作者や出版社の利益にはならない」(同)とし、出版社や著作者に対して和解からの離脱を呼び掛けている。
「絶版書籍などの保存・公開は、国立国会図書館やユネスコなど公的機関が行うべき」とも主張。「Googleのような私企業に任せるべきではない」としている。
Googleと米ニューヨーク地裁宛てに、「和解案に反対する」という内容の書面を5月18日付けで送付。今後、図書館プロジェクトに参加している慶応義塾大学図書館に対し、Googleの提携図書館に提供した書籍リストの公開するよう求めるなどして情報を集めながら、対応を進めていく予定だ。
和解に参加すべきかどうか――国内の著作者や出版社の対応は分かれている。
和解に参加すれば、スキャンされた書籍に関する補償金や、書籍データをGoogleがネット販売した際の収益の一部を受け取れるほか、自分が権利を持つ書籍をデータベースから削除するよう申請することも可能。和解を拒否すれば、これらの権利を失う代わりに、Googleを個別に訴える権利を保持できる。和解を拒否しても、Googleがスキャンを止めるという保障はない(日本の書籍全文が米国Googleブック検索に? 朝刊に載った「広告」の意味)。
Googleブック検索を「書籍を宣伝する絶好の機会」ととらえ、和解を歓迎する出版社もあれば、和解に参加した上で、書籍のオプトアウトを行うという方針の出版社や著作者団体も。倉本聰さんなど日本ビジュアル著作権協会会員174人は和解からの離脱を表明している。
日本の著作権法のあり方が、和解案への対応を難しくしているという意見もある。和解への参加・拒否を表明できるのは著作権者だが、日本の著作権法上、出版社には著作隣接権が認められておらず、出版時に出版社と著者が契約書を結ぶケースも少ないため、出版社が「自社出版物について、一括して和解/和解から離脱する」といった判断を、個々の著作者への確認なしに行うことは難しい。
高須会長は、「出版社に権利を与えられていないのが問題」とし、「出版社にも著作隣接権を認めてもらえるよう、出版界をあげて活動したい」と話していた。
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