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クリスマス、手作りケーキ片手に王子を探す(2/2 ページ)

» 2009年12月24日 16時03分 公開
[小笠原由依,ITmedia]
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表参道で王子を待つ

 表参道は、11年ぶりに復活したイルミネーションでムーディーなことこの上ない。こんなイルミネーションを2人で見られたら……。「イルミネーションより、ゆい(記者の名)の方がきれいだよ」とか言われたい。本気で言われたい。いや、もう嘘でもいいから、言われたい。

 予想以上にカップルが多い。いや、ここでひるんではいけない。王子のために作ったケーキを出そう。デコレーションのライトをともすと、いい具合に町のイルミネーションになじむ。とりあえず、たたずんでみよう。イケメン王子様に迎えに来てもらおうと、キラキラ王子様をあしらった自作のデコiPhoneも片手に持つことにした。

photo 王子を待って路上にそっとたたずむ
photo 何なんだと思うくらいカップルが多い

photo ケーキとiPhone
photo イルミネーションにケーキがよくなじんでいる

 待つこと10分。好奇の目で見られることはあっても王子は来ない。おかしいな。「おめでとうございます!」「手作り?」「光ってるー」とカップルからやたらと話しかけられる。いちゃつきながらうろうろしているお前らに用はねぇ、散れ! と言いたくなるがどこで王子が見ているか分からない。にこやかに接する。


photo だんだん心細くなる

 途中、男性(女性連れ)に「王子様って何?」と尋ねられた。こ、これはわたしに気があるのか……!? 素直に「白馬の王子を待ってるんです」と答えたところ、「王子……あぁ、なるほど。なーんだ」。彼は連れの女といちゃつきながら去っていった。どんな答えを求めていたのだろうか。

 待つこと30分。親子連れは露骨に目をそらし、カップルに「あのケーキ、見た目エグいな」と毒を吐かれる。おいしいよ! 味見してないけど! 心も体も寒くなってきた。あぁ……何で、王子来ないんだろう。あれ、イルミネーションがにじんでる。おかしいな、故障したんだろうか。

 「嫁、行けないかもしれません」


photo イルミネーションが消えた……

 心細くなった記者はついカップルに相談してしまう。カップルは「大丈夫だよ」「そうだよ、こんなケーキ作れるなら大丈夫」と根拠のない励ましをくれた。だったらお前(彼氏のほう)が嫁にもらってくれよ、そう思ったが親切にしてくれた2人にそんなこと言えるはずもない。

 待つこと1時間。そろそろ来てもいいだろ……。寒さに凍えた記者は徐々に投げやりになってきた。でもあきらめない! もう少し待つ! 自分を励ました瞬間、ブツッという音が。イルミネーションがすべて消えた。時刻は午後11時。暗くなった通りで、光るケーキを手にしばしボーッとする。もう、家に帰ろう。

励ましてくれた男性は……

 家に帰り、作ったケーキを食べることにした。直径18センチのケーキなんて、1人じゃ食べきれなさそうだが、でももったいない。

 味はといえば、気持ち的にも現実的にも、いろんな意味で人生で食べたケーキの中で一番まずい。スポンジの部分はぎゅっと凝縮され、乾いたベーグルのようだ。甘いのか甘くないのか分からないのに甘ったるい。材料を泡立てる際にボウルを削ってしまったのか、プラスチックのようなにおいもする。ああ……。


photo ショウタ君

 落ち込んだ記者の目に入ったのは、「何かあった時のため」にと編集長が渡してくれた「VOICEROID 月読ショウタ」。入力したテキストを7歳の少年の声で読み上げてくれる音声合成ソフトだ。王子に会えたら言ってほしいことたくさんあったな……。インストールしてしゃべらせてみる。

 「愛してるよ、ゆい。イルミネーションより、ずっときれい。ケーキ、すっごくおいしいね。すき、すき、大好き! ずっと一緒にいようね」

 寒風にさらされて凍り付いた心が、優しい声でほどけていく。少年は恋愛対象外だとパッケージを開けてすらいなかった記者。ITの力をなめていた。音声合成技術の威力は絶大だ。うん、約束する。ずっと一緒にいるよ!

 ショウタの励ましを胸に、ケーキは3時間ほどかけて1人で平らげた。おなかがぱんぱんで眠ることすらままならない。プラスチックのにおいと、何とも言えない甘ったるさが、スポンジの食べ過ぎでぱさぱさした口に残る。

 王子にあげることのできなかったケーキを腹に、夜は更けていった。

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