初音ミク搭乗「あかつき」金星軌道投入なるか JAXAから写真リポート
12月7日は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入の日だ。金星観測は、「あかつき」と、“搭乗”している初音ミクのミッション目的。軌道投入は、打ち上げを除けばミッション中もっともクリティカルな段階だ。搭載エンジンを逆噴射して減速し、金星の引力につかまえてもらうのだが、減速量が足りないとそのまま金星を通り過ぎてしまうし、減速しすぎれば金星に墜落してしまう。
このため適切な時刻に、適切な姿勢で、適切な推力で、適切な長さの噴射を行わなければいけない。これは想像するよりもはるかに難しい技術で、世界的に見ても失敗事例は多くある。日本にとっても、惑星の周回軌道へ探査機を投入した成功例はまだない。「はやぶさ」や、あかつきとともに打ち上げられた宇宙ヨット「IKAROS」と同じく、とても挑戦的な試みなのである。
さて、12月7日の早朝5時30分、JAXA相模原キャンパスでの金星観望会が企画されていたが、ある有名な雨女(初音ミク)の影響もあってか天候が思わしくなく、公式には中止されてしまった。ただし、それでも熱心なファンが集まったために臨時に実施し、時々金星を見ることもできたようだ。
午前7時からは「あかつき」管制室の中継を含めたパブリックビューイングが開催され、筆者もそれに参加した。平日の早朝にも関わらず老若男女数十名(正確には不明だが100人近くに見えた)が集まり、皆が固唾(かたず)を飲んでその瞬間を待った。逆噴射は一発勝負であり、やり直しはほとんど効かない。また、電波で4分近くかかる遠方であるため、地上から噴射ボタンを押したりするのではなく、全てが「あかつき」の自動操作で実施される。
午前8時49分、噴射開始時刻になったがすぐには状況が分からない。8時53分になって噴射開始の確認との一報が入り、やや安堵した空気になったが、気は抜けない。「あかつき」は地球から見えない位置に回っていったので通信は一旦途絶した。そのまま待ち続ける。
午前9時1分、噴射停止時刻となった。9時20分ごろには「あかつき」が地球から見える位置に戻って来る予定で、通信が回復するはずだった。ところが、なかなかその一報が入らず、筆者はおかしいと思い始めた(2003年のコロンビア号事故を思い出していた)。
通信が予定通り回復しないということは、姿勢が崩れたか、噴射が失敗してあらぬ軌道へ乗ってしまったか、最悪の場合、ロケットエンジン爆発などで致命的な破壊が起きた可能性も意味するからだ。管制室からの報告もなく、正常ではない何かがあったことが予感された。観客の間にも張り詰めた空気が漂った。
そのまま悶々とした状態で待ち続けること1時間。午前10時28分に電波受信との報告がもたらされ、「おお」という歓声が上がった。「あかつき」と初音ミクは生きていた。
ただし、午後3時現在、状況は決して楽観的ではない。低利得アンテナ(衛星がどちらを向いていてもよい代わりに低速でしか通信できない)での通信が取れているだけで、「あかつき」に何が起きどのような軌道にあるのかは、まだ分かっていない。場合によっては、金星周回軌道に乗っていない可能性も残されている。
しかしJAXAの運用チームが、「はやぶさ」の時と同じく諦めず粘り強い対策を打っていくのは間違いない。筆者は「あかつき」に関わる人達の話を聞いて実機や打ち上げを目撃する過程で、これが本当にチャレンジングな試みであって、傍目に見えるほど容易ではないことを実感として感じられるようになった。チャレンジには成功する時もそうでない時もある。「はやぶさ」のような成功には賞賛を惜しまないが、「あかつき」がどのような結果になっても同じように心から賞賛したい。
森岡澄夫
ニコニコ技術部で「超電磁P」という名で物作りをする本職のLSI研究者。「あかつき」搭載ミク・パネルの企画主催者。Twitterアカウントは@chodenzi。個人サイト。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
2
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
3
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
4
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
5
「楽天ドライブ」に不正アクセス 保存したデータなど1.5万アカウント分が取得・閲覧のおそれ
-
6
たばこ休憩なき時代の“一服”をどう取るか 温熱と“聞こえない音”で休む、JT子会社のアイマスクを試す
-
7
Xの「いいね」長押しで1ドル送金 マスク氏が“投げ銭”機能を予告
-
8
「能動的サイバー防御」きょう開始 警察・自衛隊などが攻撃元サーバを無害化 高市首相も狙いを説明
-
9
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
-
10
B級感がたまらない? 映画「ストリートファイター」の魅力と原作ゲームの歴史、ゲーマーマンガ家が熱弁
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR