米国政府は、海外の政府が自国のニュースや他国とのインターネット通信を遮断しても情報をやりとりできる特殊な電子メールシステムを保有している。軍事関連以外の海外放送を統括する独立米国機関であるBroadcasting Board of Governors(BBG)の報告書が明らかにした。BBGはVoice of Americaなど7つの海外放送ネットワークを管理する。
エジプトでは2月2日(現地時間)の時点でニュースとインターネットサービスが回復したため、米国政府が今回、同国でこの技術を利用する可能性は低いとみられる。このシステムが、エジプトのような全面的なインターネットの遮断に対応できるかどうかは不明だ。同国では国内のインターネットサービスも影響を受けたからだ。
情報自由法に基づいて1月31日にGovernmentAttic.orgに公開されたBBGの報告書(リンク先はPDF文書)によると、BBGは2010年3月から6月にかけて中国において同国の検閲プログラムを迂回できるか試すテストを実施した。このテストでは、「Feed Over Email(FOE)」システムを使ってVoice of America、CKXXおよびChina Weeklyのニュースが送信されたという。
同報告書によると、FOEシステムは、キーワードフィルタでブロックできないよう圧縮・暗号化された電子メールメッセージを通じて、ニュース、通常のコンピュータファイルおよびプロキシインターネットアドレスを受信者に送信した。受信者がFOEシステムから受け取ったメッセージを元の形(RSSフィードまたはダウンロードファイル)に復元するには、通信が遮断された国以外を拠点とするサービスプロバイダーに電子メールのアカウント(米GoogleのGmailサービスなど)を持っている必要がある。
「FOEが新しいプロキシアドレスをユーザーにプッシュ配信することにより、ユーザーはわれわれのWebベースのプロキシサーバのいずれかを経由して未検閲のインターネットを閲覧できる」と報告書は述べている。ユーザーはFOEを使って、Tor、Freegate、Ultrasurfから無料のプロキシネットワークソフトウェアをダウンロードすることもできるという。
このシステムは検閲を迂回するのに使用する既存のプロキシネットワークを補完することにより、遮断された情報にユーザーがアクセスできるようにする。既に米国は、エジプト、イラン、キューバなど21カ国にニュースを配信するのにプロキシサーバを利用している。
「FOEはプロキシソリューションではないが、その狙いとする目標は達成した」と報告書は記している。「いったんセットアップすれば、後はユーザーが介在しなくとも自動的に動作した」
報告書によると、BBGの技術サービス・イノベーション局の「反検閲チーム」がFOEシステムを使って、ワシントンD.C.、香港、中国の2つのサイト(深センと北京)でテストを実施した。テストで使われたのは、米MicrosoftのWindows 7 Ultimateで動作する中国LenovoのノートPC「T400」、Windows XP Professionalで動作するソニーのノートPC、Windows XP Professionalを搭載した米Dellのデスクトップなど、極めて標準的なシステムだという。China Telecomの家庭用ブロードバンドサービス(ショッピングモールのWi-Fiスポットを利用)、Chinanetおよび香港のCity Telecomを通じて送信が行われた。
「FOEのテストはすべて成功したが、この技術が一般に開放された場合にうまく機能するかどうかは不明だ」(同報告書)
エジプトのホスニー・ムバラク大統領の30年間にわたる独裁政権に反対する民衆デモに対し、同国政府は1月27日、大手5社の通信事業者に対してインターネット接続サービスを停止するよう命じたと報じられている。最後に残ったインターネットサービスプロバイダーのNoor Groupも1月31日にサービスを停止した。
米Renesysのジェームズ・コーウィー氏は「エジプト政府はサービスプロバイダー各社に対し、インターネットを通じた海外との接続をすべて遮断するよう命じたようだ。これはインターネットの歴史上、前代未聞の行動だ」とブログに書いている。
米Commtouchの製品担当副社長アサッド・グライナー氏が米eWEEKに語ったところによると、この接続遮断により、ユーザーはTwitterやFacebookといったエジプト国外のサイトにアクセスできなくなったが、国内サービスの遮断の規模は不明だという。「プロキシネットワークへのアクセスには、当局が遮断したものとは異なるプロトコルを利用できる」と同氏は話す。
エジプトには数十社のインターネットプロバイダーが存在するが、大手キャリアが接続を遮断したことで、これらの中小プロバイダーの通信機能も影響を受けた。仏French Data Networkなど、固定電話向けにダイヤルアップサービスを提供した電話会社もあった。Googleも音声でTwitterに投稿できるサービスを開始した。
こういった状況の中でエジプトにFOEが配備されていたとしたら、この5日間にわたってエジプトとの情報の流れが遮断されることはなかったかもしれない。
オバマ米大統領は1月28日夜、窮地に立たされたムバラク大統領との電話会談の後で国民向けに声明を発表し、「21世紀に人々を結び付けるのに大きな役割を果たしているインターネット、携帯電話サービス、ソーシャルネットワークへのアクセスを妨げる行動を中止するようエジプト政府に求めた」と語った。
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