建築関連のスタートアップである香港のAricalは、AIが建築物の概念設計を行う「Automated Design Generation」(自動デザイン生成)というサービスを提供している。
まずAIに、建物の階数や強度、立地などの条件と、そこに課せられる建築上の法規制、市場データといった関連情報を与える。すると、その条件に合致したデザインを数百個〜数千個まで瞬時に自動生成してくれる。生成したデザインのデータはそのまま主要な設計ソフトに書き出せるため、人間はデザインを選び、そこから詳細な設計データを作っていけばいい。
面白いことに、このサービスは間取りのバリエーションまで自動生成し、「実際に建築したらどれくらいの賃料を稼げそうか」を算出してくれる。人間が同じ作業を行う場合は手間も時間も掛かるが、AIならかなりの時間を短縮できる。実際にフィリピンで行われた建設プロジェクトでは、設計・デザインの期間を1年間短縮できたそうだ。
AIによる自動化は、1つの業務全体を機械に任せたり、人間では実現不可能な価値を生み出したりするレベルに達しようとしている。
AIは「電力」に例えられることがある。業界を問わず利用され、さまざまな形でその発展に寄与すると考えられるからだ。そして、「意識せずに日常生活で使われるようになる」という点も似ているだろう。私たちが普段の生活で電化製品を当たり前に使うように、AIを活用したアプリケーションは空気のように生活に浸透していくはずだ。
ドイツ・ベルリンで毎年開催されるエレクトロニクス展「IFA」の会場であるメッセ・ベルリンのクリスチャン・ゲーケCEOは、「AIはデジタル世界に完全に統合され、あらゆる場所に存在するようになり、私たちはそれを全く意識せず使うようになるだろう」と予測している。
同じくドイツの家電メーカーであるミーレの創業者ラインハルト・ツィンカン氏は、その例として自動で動き回るロボット掃除機を挙げている。回転寿司チェーンが誕生したことで、普通の寿司屋が「回らない寿司」と呼ばれるようになったように、いずれ人間が手動で動かす掃除機は「動かない掃除機」などと呼ばれるようになるのかもしれない。
スマートスピーカーやスマートフォンの音声アシスタントなども、そう遠くない未来、同じように「意識されないAI」の仲間入りをするだろう。「AIって何に使えるの? どんなところで使われているの?」という疑問を持つのは、もしかしたら私たちの世代が最後になるのかもしれない。
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。
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