河本教授は、「データ分析の結果を現場で活用してもらうためには、現場の信頼を獲得する必要がある。これは話し上手とかそういうレベルの話ではなく、実はロジカルで戦術的な話だ」と指摘する。
工場など非IT系の担当者とやりとりすることが多かった河本教授自身、最初は乗り気ではなかった現場担当者が、ヒアリングを重ねる中でデータ分析に興味を持ち、徐々に生き生きしていく現場を何度も目にしてきたという。
例えば、「いきなり難解な技術の説明をしない」のもポイントの一つ。いきなり難しい数式を見せて機械学習の話をしても、現場担当者はアレルギー反応を起こして話を聞いてくれない。そこで、Excelで作れる簡単なグラフなどを見せ、徐々にステップアップするという作戦を採った。
「遠回りに見えても、記述統計から始めると良い。そこで現場から『そんなことをしても意味がない』と指摘があれば、とんちんかんなデータ分析をしてしまうことを防げる。次に線形回帰や決定木といった簡単な分析手法の結果を見てもらい、そこからようやくSVM(サポートベクターマシン)などに移る」(同)
また、現状の業務プロセスを変える場合も、現場からの反発は大きい。例えば、工場設備の異常検知を予測する場合、仮に98%の予測精度を出せても、「見逃した2%の中に重大な異常があるかもしれないじゃないか」と反論されることがあるという。100%異常を見逃さない予測ツールでなければ、導入しても現場の手間が増えるだけだと反発されてしまうのだ。「人間でも絶対見逃しはあるはずだが、そんなことは現場担当者にはもちろん言えない」と河本教授は笑う。
そこで、まずはデータ分析で異常検知し、その結果を現場担当者が目視するという流れにした。目視する数が大幅に減るという分かりやすい効果があるため、現場担当者にも受け入れられ、作業の効率化につながったという。
工場の生産計画に気象データを活用した例もある。工場の生産計画は1週間単位で行われるものだが、1週間後の天気を予測しても外れることが多かった。5日後までの予測なら誤差を2%未満に抑えられるため、発注から納入までの期間を5日間に短縮させる提案をした。生産計画の期間を変えることはこれまでの常識を大きく変える出来事だったが、具体的な効果を示したことで現場の納得を得られた。
河本教授は、「データ活用は試行錯誤。ときには見切る勇気も必要だ。まずは(システムの)プロトタイプを作ってユーザー企業に導入してもらい、現場を巻き込んでやっていくのがいいだろう」と語った。
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