今回の楽曲制作で私がやった作業は「企画立案」「AIに要望を伝える」「AI間のデータの受け渡し」など。プロデューサーのような仕事といえるかもしれない。
以前、人間の作詞家、作曲家に楽曲制作を依頼したときにも、ほとんど同じような作業をしたことがある。違いは相手が人間かAIか程度しかない。
今回の楽曲制作で、AIの強みは早さだと実感した。人間に発注した場合は楽曲完成まで1カ月以上掛かったが、AIなら1日で済む。歌詞は1秒以内、最も時間のかかるボーカルの合成も10分以内で完成する。これがAIの最も人間らしくない部分ともいえるだろう。
逆に人間の強みは、スムーズなコミュニケーションがとれ、要望を取り入れてもらえるところだ。制作段階で互いに話し合って曲に修正を加えるなどブラッシュアップできる。場合によっては、頼まなくても向こうから改善アイデアが上がってくることも多い。個人的に、AIとコミュニケーションするよりは楽だった。
現在、社会で活用されているAIの多くは効率化や省力化のために使われている。今回使ったツールもほとんどは、AIの提案を基に人間が手を加えてブラッシュアップする使い方が基本だ。自動化できるところは自動化し、手間を省く。そうしてできた時間を楽曲のクオリティー向上や、別の曲を作る作業に充てるなど、今までできなかったことに使えるようになる。
AIの登場で音楽の仕事も奪われるという懸念もあるが、しばらくはこの、AIが提案して人間が判断するスタイル(Human in the loop)が続くのではないかと思う。
対して、今回ほとんどの作業をAIに任せて分かったのは、「私(人間)は特に楽しくない」ことだ。仕事ならいざ知らず、アマチュアにとって楽曲制作はやりたくてやるもので、「なぜ楽しい部分をAIがやって、データの受け渡しや単純作業のような部分を私がやってるんだ」という気分になる。楽しいところを人間がやって単純作業を機械がやるなら分かるが。
楽曲制作をしたい人に、「AIが全部やってくれました」といっても、作曲欲は満たせないため、人間は芸術をやめないのではないか。
AIを使った芸術活動は、普段AIの開発や研究に携わっていない人でもAIに触れられるあまりない機会だ。触ってみたからこそ分かるAIの特徴というのもあるため、一度挑戦してみてはいかがだろうか。
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