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「サンプラーの元祖」メロトロンの構造がアナログの極みすぎる そして複雑な楽器の著作権問題について古代サンプラーがアプリになるまで(7/7 ページ)

» 2022年02月24日 13時42分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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混沌として不明瞭な音源の権利

 ここで、1つ大きな疑問を抱いた人もいるのではないか。オリジナル音源に関する権利だ。スーパーマネトロンは、シリアル番号761のM400Sからサンプリングした音を収録している。普通に考えるならこの音源には、権利者がいるはずだ。ただ、Mellotronのマスター音源についての権利は混沌としており、今となっては明確ではない。

 現在、キーン氏のMellotron Archivesは、1/4インチのマスターテープを保有している。ただ、このマスターは、オリジナルからコピーした第2世代のものだというのが定説だ。Mellotron Archivesのサイトには、1990年にレス・ブラッドリー氏(英国でMellotronを商品化した人物)から買い取ったと記載はされているが、権利については一切触れておらず、この辺りは明確ではない。

photo 現在のMellotronビジネスでは、商標を持つ米国系のMellotron Archivesと本家たる英国のStreetly Electronics(レス・ブラッドリー氏が起源)の2つの派閥が存在する

 そもそも、キーン氏が音源に対して排他的な権利を有していたら、先の筆者へのクレームにおいて、商標や意匠に加え、音源についてもクレームを付けてくるのではないか。音源について何も言及がないところをみると、排他的な権利を保持していないと理解するしかない。

 ちなみに、Mellotron Archivesでは、この第2世代のマスターからノイズを除去するなどデジタル処理を施し新規にテープ音源を作成している。この音源は、赤いボディーでおなじみのキーボード「Nord」のMellotronライブラリとして採用されている。このMellotron Archivesがリマスタリングした音源については、同社が権利を有していると理解していいだろう。

 スーパーマネトロン以外にも、「GFORCE M-Tron」「Manikin Electronic Memotron」「KORG KRONOS」「SampleTron」など、Mellotron音源は、アプリ、プラグイン、ハードウェアがたくさん存在する。GFORCE M-Tronは、Streetly Electronicsの音源、Manikin Electronic Memotronは、ドイツのミュージシャンである故クラウス・ホフマン=ホック氏の実機からサンプリングしたことで知られている。

 さて、肝心のアプリ開発の進捗だが、現在、サンプリングした音源をチェックしつつ補正を実施しているところだ。補正しすぎるとMellotronっぽくなくなるし、かといって“素”のままだと、音源としての使用に耐えないシロモノになってしまう。悩ましいところだ。

著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla


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