SF短編小説 ver.1を基に、ワーキングチームの活動を再び実施しました。第3回「ビジョンの磨き上げ」として、SF世界の課題やキャラクターの価値観、ライフスタイル、せりふ、行動などについて意見交換をしました。参加者143人を10チームに分けて、ver.2に向けたリバイズ(校正、修正)に関する議論を行います。
それらの意見をベースに「SF短編小説 ver.2」として、松崎さんが「山のくらし」「街のくらし」を、柴田さんが「美はまた近くになりにけり」「くらやみマンションS.O.S」を5000〜8000字程度で執筆しました。そこにイラストレーターのKllinika Hamiyamaさんがイメージイラストを描きました。
「3回目のWeb会議で『こんなアイデアも入れられないか』という意見もありましたが、そのアイデアを生かしきれなかったことはあります。たくさん詰め込むと世界観がぼやけてしまうというSF作家サイドの思いもあったようです」(室木さん)
とはいえ議論が生きたアイデアも多数あります。例えば、SF短編小説ver.2では寝ている間に鼻からチューブで栄養を摂るという表現があり、議論を経て肌から栄養を摂るミールパッチに変わったといいます。またエレベーターも2050年になるとボタンを押すのではなく、非接触になっているだろうという意見がSF小説に反映されました。こうしたやりとりを踏まえて、最終的なSF小説が完成しました。
SF小説が完成した後、最後に「未来の食卓シンポジウム」を開催してSF小説を公表しました。それに併せて、2050年の食卓の姿についてのパネルディスカッションを開催しました。
「シンポジウムのときに、日本には木がたくさんあるので、木を食べられるようになればいいなど、SF小説では描かれていないアイデアが新しく出てきました」(室木さん)
「土を食べるというアイデアもありましたね」(高梨さん)
完成したSF小説は、農林水産省のWebサイト上で誰でも読めます。せっかくなので携わったお2人に感想を聞いてみました。
「私は山のくらしが気に入っています。物語を読み進めると分かるのですが、やっぱりご飯は口から食べて『おいしい』って感覚を残したい。チューブから栄養を自動で取れるのは寂しい気がします。2050年にこんな未来があったらいいよねというワクワク感がありつつ、でも今の生活もいいよねという部分があったりする作品でした。そんなバランスが取れた未来がくるといいと思いました」(室木さん)
「山のくらしと街のくらしはセットなんですよね。いろいろなフードテックの技術が出てきますし、将来的にこうなってそうだなと思えるところがいいなと思います」(高梨さん)
美容をテーマの1つにした、柴田さんの美はまた近くになりにけりも話題に上りました。
「実は、最初は女性が主人公でした。でもいまの時代、美容を気にするのは男性でもあり得る話なので、主人公が男性に変わりました」(高梨さん)
「私が1つ頼んだのが、このいちごパフェなんです(イラストを指さしながら)。最初は皆んな健康に良さそうなものを食べていたんです。でも皆んなが健康を気にしている社会だけど、中には思いっきりパフェを食べたい人もいるよね、というのをイラストに反映してもらいました」(室木さん)
最後に、事務局としてSFプロトタイピングを実施したこれまでを振り返っての感想を伺ってみました。
「将来像を描くとき、SFプロトタイピングという手法があると言うことは勉強になりました。やっていてとても楽しかったですね。参加者も同じだったようで、自分の会社に持ち帰ってやってみようと話す方もいました」(室木さん)
「幅広い年齢層が集まって和気あいあいと意見を出し合うのは、国の会議ではほぼありません。こんなアイデアもあるんだと気付けたことも楽しかった要素でした。またフードテックの話として始まったものの、小説を考えるうちに2050年の社会環境まで議論が広がったのが面白かったです」(高梨さん)
2050年の食卓の姿ワーキングチームの活動はいったん終了しましたが、フードテック官民協議会へは誰でも参加できます。今後とも、食の未来について議論していくこともあると思いますので、気になる人は参加してもいいかもしれません。
今回、この取り組みを知ったときは「官庁がSFを使ったSFプロトタイピングを活用する」ということに驚きがありました。農林水産省だけのプロジェクトならSFプロトタイピングを活用することはなかったそうですが、フードテック官民協議会という民間も参加する団体だったからこそ実現したといいます。農林水産省が面白い取り組みをしていると話題になり取材依頼も増えたそうで、高梨さんや室木さんはSFプロトタイピングの思わぬ効果を感じていました。
SFプロトタイピングに興味を持った、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。この連載で紹介させていただくかもしれません。
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