筆者はそんな希望とともに、小さな絶望感も覚えた。「絵がうまくなりたいと努力した10年間はいったい何だったんだ」と。
筆者は小学生のころから好きなアニメのイラストをまねして描き、中学・高校では漫画研究部に所属して絵を練習した。授業中には内職でイラストを描いていた。それでもこのレベルにとどまった。
そんな自分の絵が、イラストAIをかませると、線から着彩まで理想に近いクオリティになり、数秒で完成してしまった。「10年間の努力はいったいなんだったんだ」と、正直むなしかった。イラストAIに不安や脅威を感じるイラストレーターの気持ちもうなずける。
この気持ちは、手書きの絵からデジタル作画に移っていった十数年前ごろ、当時の漫画家やイラストレーターが感じたことに近いかもしれない。それ以前は、手で描く以外に手段がなかったし、漫画を描きたければ、つけペンやスクリーントーンの使い方に習熟する必要があった。
デジタル化により環境はガラリと変わった。つけペンやスクリーントーンの代わりに、タブレットや漫画作成ソフトが漫画制作の主役になった。手先の器用さや画材の調達力は問われなくなり、漫画を描くハードルはグッと下がった(関連記事:「インクの出ないペンで鼻歌をうたおう」)。デジタルで描かれた漫画はそのまま電子書籍やWebtoonになり、スマホで気軽に楽しめるようになった。
イラストAIも、そんな転換をもたらすのだろう。
技術は後戻りできない。それはきっと、今より豊かな世界につながる。埋もれていた才能が次々に現れるだろう。漫画のデジタル化が、新たな才能をたくさん生み出したように。
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