大橋 ここまで21年のプログラムについてお伺いしました。翌22年に実施した企画が「SFプロトタイピングを使って考える『100年後の食生活』」ですね。
南部 自動運転と違い、食は身近な生活に密着していますが、関連する領域が広すぎて社会への影響などを考えづらいという難しさもあります。そこで「食品や食に関するサービス名を作る」というワークに仕立てました。
「食に関する言葉」と「無関係の言葉」を掛け合わせて、100年先の食品や食関連サービスを考えます。例えば、自己紹介で出た趣味の「踊り」と「豆腐」を掛け合わせた「デジタル機器踊り豆腐」のように、突拍子もないネーミングを生み出します。その後、その“架空食品”が100年後の生活でどう扱われているかを考え、そこに至る過程をバックキャスティングで検討して「未来年表」を作りました。
石川 この方法は、SFプロトタイピングに積極的に取り組む科学文化作家の宮本道人先生から、SF思考をレクチャーしていただいた際に教わりました。
大橋 言葉を掛け合わせる手法は、農林水産省さんの取り組みでも採用していました(取材記事はこちら)。実際、効果はありましたか?
石川 かなり飛びました。発想は21年より飛んでいましたね。
南部 一方でネーミングから入ると話は面白く進む一方で、商品の仕様や機能に目が向きがちで、社会に与える影響といった広い視点の議論になかなか到達しません。それでも考えを広げるきっかけにはなると思います。
大橋 効果があったんですね。農林水産省さんの事例とは、未来の食がテーマというのも共通点ですね。
石川 農林水産省さん議論の中に、食事をせずチューブなどで栄養補給する「非食」が登場していましたが、私たちの方でも非食が出ました。アプローチは違ってもどこか共通するのかもしれません。食というモノやサービスの内容を考える中でも、人とのつながりを考えないと社会は描けないと思いました。
南部 結局、面白おかしなキーワードを出しても、そこから未来の社会がどうなっているかを想像しないと、考えた食品やサービスの食べ方も使われ方も価値も出てきません。自然に無人配送が普及するのではなく、例えば人口減少の結果としてロボット配送が定着するといったように、やはり人の存在が大切です。
100年先の食を巡る社会の状態にまで話が広がったチームの意見には「100年先は天然のものは取れていないはずだ」「食糧難が心配」などがありました。
大橋 僕は「100年先は非食」「天然モノは無くなっている」という話を聞くと「ええっ!」となります。いまの延長で考えるとそうなるかもしれません。でも、そんな未来になって欲しいのか? と。僕は楽しく食事をする未来の方が好きです。SFプロトタイピングで描きたいのはそんな未来です。そんな未来を作るためにバックキャスティングでいま何をすべきかを考えた方がいいかなと思うんです。ちょっと言いたかっただけです(笑)。
石川 おっしゃる通りだと思います(笑)。
大橋 2回にわたるイベントのお話がとても面白かったです。さて、SFプロトタイピングではファシリテーションが重要になってきます。プロのファシリテーターとしてアドバイスをいただけるとうれしいです。
石川 私たちファシリテーターは参加者の心理的安全性に気を付けています。発想が飛べない人がいたら、「大丈夫だよ」というメッセージを出すことが大切です。テクニックは南部さんにお任せしましょう(笑)。
南部 テクニックですか? ほとんど無意識で動いていますけどね(笑)。
日本ファシリテーション協会のベーシックな設計としては、まず何を話しても大丈夫な安心安全の場だよという雰囲気づくり、そして場を温めるアイスブレークなどを大切にしています。
その後に話を引き出します。アイデアを発散させて、出てきた意見を整理して、ある程度合意の方向に持っていきます。構造化や合意形成といった進め方を意識しながら、いまはどういう段階なのか様子を見つつ進めます。
大橋 まさに、議論をサポートする役割ですね。
南部 流れを促す感じですね。それから、発言そのものに対して良し悪しの判断はしません。良い意見を出さなければならないと思うと、詰まっちゃいますから。何でもいいから出してみて、そこからつなげて遊ぼうみたいな、楽しい雰囲気で何でも言えるようにするのが最も重要ですね。気の利いたことを言わなくてもいいんです。何か喋ろうよ、と促すんです。
ファシリテーターは出てきた意見を評価するのではなく、どこでどれくらい意見が出ているのか、場の雰囲気はどうかといった対話のプロセスを見ていくイメージです。一般的なワークショップや市民対話は意見が出るのをゆっくり待つことも重要で、じっくり合意形成を目指して話し合い、満足度や納得度を高めます。一方でSFプロトタイピングはアイデアを発散できるよう、意見が出るのを待つだけではなく、テンポよく発言を促すのが大切です。そこが違いですかね。
石川 参加者にアイデアを出してもらう際、ファシリテーターが独自に持っている技術を使って促しています。
大橋 決まった方法を使うのではなく、ファシリテーターの得意な方法で進めるのですね。
石川 そうですね。ただし、参加者の雰囲気に合わせてファシリテーションの方法を変えられる引き出しがあると便利です。自分の方法を一方的に押し付けて、参加者に合わせてもらうわけにはいきません。いくつかのアプローチ方法は持っておくべきでしょう。
例えば、よく喋る人がいたら静止するのではなく乗っかるとか。参加者の雰囲気に合わせた問いかけをするには多くの引き出しがあると有利ですが、そこに正解があるわけではありません。
大橋 なるほど、いくつか引き出しを用意しておくと安心ですね。ちなみに日本ファシリテーション協会では、今後もSFプロトタイピングを継続するのでしょうか?
石川 継続します。本格的な市民対話に入っていきたいと思っており、その場所を探しています。街や社会の未来に科学技術がどう受け入れられていくのかを考えながら、研究機関などのお役に立てたらうれしいです。
大橋 ありがとうございました。ぜひ、いつかどこかでコラボレーションしましょう!
日本ファシリテーション協会でSFプロトタイピングを使ったのは、科学技術を社会実装するという取り組みの中で、議論のツールとして使えると考えたことがきっかけでした。
SFプロトタイピングにはさまざまなアプローチがありますが、僕はファシリテーションが重要だといつも考えています。ファシリテーションをSF作家が担うこともありますし、僕のようなSFプロトタイパーがSF作家と企業の橋渡しをすることもあります。日本ファシリテーション協会のようなファシリテートのプロに依頼するのも面白いと思いました。
この連載では、さまざまな立場からSFプロトタイピングを実施した事例を集めることで、SFプロトタイピングを活用できるメソッドにして行きたいと考えています。
SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。この連載で紹介させていただくかもしれません。
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