大橋 参加者にとってもファシリテーターにとってもチャレンジングだったのですね。では、自動運転をテーマにした21年のプログラム内容についてご紹介いただけますか。
南部 2時間という制限がある中で、次のような進め方をしました。
(6)のグループワーク1では、4チームに分かれて100年先の未来社会を考えました。その際、チームごとに担当地域とそこに住む主人公を割り振りました。
各地域で主人公たちがどう暮らし、自動運転をどう使っていて、そこはどのような社会になっているのかを想像してもらい、出た話をワークシートに書き込みます。議論に集中してもらうため、記録係はファシリテーターが務めました。
続く(7)全体共有は、ブレークアウトセッションから戻ってきた全員で、各チームが想像したことを発表しました。地域と主人公の属性が異なると、テーマが共通していても展開に変化が出てくるのが面白いところです。
そして(8)グループワーク2でチームに戻り、100年後の未来人が私たちに「100年後はこんな生活をしているよ」とメッセージを送る設定で、これまでに出たアイデアをまとめました。ここはSFプロトタイピングでいう物語を作る時間です。
一度、全体発表でチームごとに異なる地域の様子を共有していたので、自動運転というテーマを通じて他の地域とつながり合う生活を描いてほしいと期待していました。
大橋 実施してみて難しかったところはありますか?
南部 ワーク時間が短かったので、いかに考えを深めるプログラムにできるか悩みました。自動運転という言葉を聞いたとき、一般的には自動車そのものを連想しがちですが、「自動で動く」という特徴から発想を広げてもらう必要があります。
また、単に自動運転という技術や機能を考えるのではなく、100年後にその自動運転がどのような社会を作っているか考えてもらいたいです。科学技術が未来の社会に与える影響を、ELSI(論理的、法的、社会的な課題)の視点で掘り下げていくわけです。
本来のSFプロトタイピングは描いた未来から逆算して、その未来が出来上がる過程をバックキャスティングで考えます。しかし今回は時間的にアイデアを発散するまでが精いっぱいでした。
石川 南部さんが触れていた、自動運転を通じてつながり合う生活、広がる生活、人と人との関係性はあまり広がりませんでしたね。自動運転の技術だけでなく、人間や生活との関わりを明らかにしてもらう狙いもあったのですが……。
また、自動運転になって良いこと尽くしではなく、「課題もあるけど未来ではどう解決しているかな?」というところまで進めたかったのですが、現在の不安感を引きずった意見に振り回されてしまう傾向がありました。
思考を100年先に飛ばすという点についても、すんなりと発想が飛ぶ人もいれば、飛び切れないで現在の延長で考える人や、全く飛べない人もいました。そういう人たちも受けとめて対話を促すにはテクニックがいりますね。
大橋 思考を飛ばすためのツールとして、SFプロトタイピングは有用なのでしょうか?
石川 そう思います。ただ、私は飛べない人を無理に飛ばす必要はないと思っています。人のタイプは十人十色なので、飛べる人に飛んでもらえばいい。飛べない人は、現在と未来をつなぐバックキャスティングの段階でリアリティを与える役目で能力を発揮するかもしれません。「飛べない=悪い」とは考えないようにしています。そこはSFプロトタイピングに何を求めるかで変わりますね。
大橋 ワークの成果として印象に残っているものは何でしょうか?
石川 主人公の生活を想像するうちに、次世代の交通システムまでアイデアが広がったチームがあって興味深かったですね。他にも、一人ひとりが自動運転するのは効率が悪いからどこかで集めて乗り合いになるはずだとか、学校や図書館がまるごと自動運転になるはずだとか。2時間に収めるには惜しい展開でしたね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR