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4足歩行ロボット「MARVEL」 韓国と米国チームが開発 90度の壁を登り、天井を逆さに這うInnovative Tech

» 2022年12月26日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 KAIST(韓国科学技術院)と米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に所属する研究者らが発表した論文「Agile and versatile climbing on ferromagnetic surfaces with a quadrupedal robot」は、金属製の建物や構造物の壁や天井を登ることができる、磁気を帯びた脚を持つ作業用4足歩行ロボットを提案した研究報告である。90度の壁面を登り、天井も逆さに這うように移動し、障害物を避けた歩行を行う。

垂直の壁面や天井を這う様子

 貯蔵タンクや橋梁、造船所などの検査では、壁面や天井、隙間などの環境下で作業することが多くある。このような作業環境は、人間が直接アクセスするのは困難であり、危険な場合も少なくない。このような狭くて複雑な3次元環境において、脚式ロボットはさまざまな動作を行える可能性がある。

 この研究では、4足歩行ロボットが強磁性体の壁や天井を動的に移動し、天井、隙間や障害物の乗り越え、平面間の移動、貯蔵タンク上の移動、積載物の運搬が可能なシステムを提案する。

 ロボットは「MARVEL」と呼ばれ、4つのマグネットフット(0.2kg)を持つ、8kgの動的かつ多用途なクライミング4脚ロボットである。胴体の幅、高さ、長さはそれぞれ119×131×330mm(前面股関節から背面股関節まで)である。

MARVELの構造

 これら運動タスクを実現するために、磁気粘着力の発生と除去を低消費電力で瞬時に行える「S-EPM」、わずかな保持力を犠牲にして大きなせん断保持力を実現する「MREフットパッド」、そして足が滑ったり転倒したりせずにロボットが3次元空間をダイナミックに移動できるコントローラーを備えたアクチュエータの相乗的な組み合わせでできている。

 脚部には磁性エラストマーと電磁石の両方が使用されており、この2つを組み合わせてロボットの足が必要に応じて磁化したり消磁したりを可能にする。磁気のオン・オフを切り替えることで、1本の足が壁の垂直な場所にくっつき、他の足がくっついたまま固定され、1本ずつ足を離して歩けるようになる。

磁気足の構成要素

 動作に当たって対象物は平面ばかりだけでなく、突起物などの障害物が含まれているため、それらを回避し進まなければならない。そこで研究チームは、猫が前進する前に前足で小さな一歩を踏み出し、確認後に後ろ足の動作を加えるという、路面を試すような動作をシミュレートした。前足で確認してから、どうやって進むかを決定しているわけだ。

 評価実験では、金属の壁をよじ登り、天井を歩く動作を確認した。さらに、壁がオレンジ色に錆びた古い屋外貯蔵の曲面タンクでテストした結果、ほこりや塗料で覆われていたが突起物との衝突を避け、障害物を乗り越えながらタンク表面上の移動に成功した。また、3kgまでの荷物を搭載できることも判明した。

 動画はこちらから

Source and Image Credits: Seungwoo Hong, Yong Um, Jaejun Park, and Hae-Won Park. Agile and versatile climbing on ferromagnetic surfaces with a quadrupedal robot. SCIENCE ROBOTICS 14 Dec 2022 Vol 7, Issue 73 DOI: 10.1126/scirobotics.add1017



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