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トンボ鉛筆のデザインペン「ZOOM」が復活 迷走の末に辿り着いた“1本の美学”とは?分かりにくいけれど面白いモノたち(3/8 ページ)

» 2023年03月20日 11時30分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 そこから、しばらくZOOMシリーズの迷走が続く。初期ZOOMの細いシャープペンシルとボールペン「ZOOM707」をリニューアルしたり、ZOOM LIGHTとして、安価な多機能ペンを発売したり、「ZOOM韻」という和のテイストの高級路線を発売したりと、コンセプトが定まらないまま、様々な製品を発表。一つ一つは実に魅力的で、私は今でも「ZOOM韻 砂紋」や「ZOOM505 MP」などを愛用しているのだが、それでも、シリーズとして維持していくのは難しいということになったらしい。

和を前面に打ち出した「ZOOM 韻」シリーズ。箸をモチーフにした「ZOOM韻 箸」と、石庭の箒の掃き目をイメージした「ZOOM韻 砂紋」が発売された

 そういう経緯を経て2023年、ゼロ・ベースに戻し、これまでのZOOMのDNAだけは継承しながら、全く新しい世界観とコンセプトを立てて始まったのが、今回の「ZOOM」シリーズということになる。

新しいZOOMシリーズのコンセプトを象徴するイメージ写真。写っているペンは「ZOOM C1」

 今回のZOOMのデザインを担当したトンボ鉛筆のデザイナー、国府田和樹氏は「かつてのZOOM、特に707や858あたりは、極細だったり極太だったりと、とにかく個性が際立っていました。他に似たものがない、ZOOMらしさを強く感じる製品だと思います。ただ、それをそのまま持ってくるのではなく、ビックリさせるということも含めて、そういう際立った存在とかキャラクターの個性が強いものを作りたいというのはありました」と振り返る。

 「創造筆記のための筆記遊具」という最初のZOOMのコンセプトの根幹の部分は残しつつ、全く新しいブランドとして、今回の製品もデザインされているという。その新しさの一つが、日本らしさにフォーカスすることだ。

「前の『ZOOM韻』シリーズは、最終的なアウトプットが和のテイストになるように作られていました。形だけでなく、色味もそうですし、金箔を使うとか、そういう形で日本を前面に押し出していました。今回は、その方向ではなく、何となく日本がにじみ出るという感じにしたいと考えました。だから、ぱっと見はそれほど『和』の感じはないと思います。ただ、細部のデザインや風合いのような部分に、日本人が作ったというニュアンスが感じられるようにと考えました」(国府田氏)

 今回のZOOMのコンセプトは「1本の、美学。」だそうだ。それは、「日本人が培ってきた、凛然さのなかに自由に遊びを取り入れる美意識」、「地に足をつけながらも、最先端を追い求める工夫」を意味し、「自立した大人の知性と個性を際立たせる」というブランドエッセンスをより鮮明に方向づけることにつながると、トンボ鉛筆取締役マーケティング本部長、亀井明憲氏をリーダーとするZOOMプロジェクトは導いた。このコンセプトが先にあって、その中でデザインを始めたのだそうだ。

 まとめると、スッキリしたデザインの中に日本らしい遊び心を感じさせ、使いやすさを損なわずに新しい技術や素材を使い、大人が使える筆記具に仕上げる、といったところなのだろう。

 その具体的な形として、分かりやすいのは、今回の製品の中では最も上の価格帯にある、「ZOOM C1」だろう。

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