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トンボ鉛筆のデザインペン「ZOOM」が復活 迷走の末に辿り着いた“1本の美学”とは?分かりにくいけれど面白いモノたち(6/8 ページ)

» 2023年03月20日 11時30分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 国府田氏は「でも、『505』をトレースしようという意識はなかったんです。最初は、シリーズとして面展開をするなら、油性ボールペンもあって、水性ボールペンもあるという感じにしたいと考えたんです。それで、水性ボールペンならキャップ式になるしというところで、意識の中には「505」があったとは思います。でも、実際に考えたのは、太軸でキャップ式というと、どうしてもノスタルジーを感じやすいオーセンティックな形になりがちなので、そうではなくコンテンポラリーに見えるようにするには、どうすればいいかを考えていました。そこで着目したのが素材感でした」と振り返る。

シルバーの中軸と透明素材のDURABIOの外軸の二重構造になった軸。見る角度によって見え方が変わる。中軸のシルバーが外軸の磨りガラス風に加工された部分に反射して、いっそう深みが出る仕掛けだ

 金属軸で普通に銀色とかだと、オーソドックスな万年筆みたいになってしまうし、どこかに崩しのポイントを持っていきたいと考えた結果生まれたのが、二重構造のように見える軸のデザインだった。出来上がった「ZOOM L1」を見ると、一見、普通の軸のようにも見えるし、それにしては不思議な奥行きも感じて、よく見ると、外側は磨りガラスのようになっていて、その向こうに金属の軸が見えるという構造に気がつくようになっている。なんとも凝った、しかし中々分かりにくい意匠だ。

「角度によって、奥行き感が変わったり、表層的に見るとシンプルな塊感があったり、それを行ったり来たりできるように、磨りガラス的な部分の目の細かさや色を、もう実際に作ってみて、目で見て調整していくしかありませんでした」(国府田氏)

 面白いのは、キャップと軸の色の組み合わせで、二重構造が分かりやすいものと、分かりにくいものがあること。黒っぽい、濃い色でキャップと軸が揃えてあると、奥行き感はあっても二重構造は見えにくい。一方で明るい色のキャップのタイプは軸の透明度も高く、中の軸が見えやすい。

明るい色のキャップが付いたトレンド・カラーのタイプは、外軸と中軸の両方がハッキリと見える。より軽快に使ってもらおうという意図でデザインされている

 「ZOOM L1」のLは、LightのLを示しているそうで、ライト・ユーザーにも幅広く使ってもらいたいとなると、シックなデザインのものばかりではラインアップとしては面白くない。そこでポップな色のキャップの製品も出して、そっちは二重構造を見えやすくすることで、軸もポップでモダンな感じを表に出すというのは、とても理に適っている。すごいのは、この深みとポップを同じ構造で実現してしまったということだろう。見え方の違いがデザインに組み込まれているのだ。

 しかも、磨りガラスのように見える部分は、アクリルやポリカーボネートなどの、透明素材として筆記具によく使われている素材ではない。

「現存するプラスティック素材の中ではアクリルが一番透明度が高いんです。でも傷付きやすいんです。ペンケースに他のものと一緒に入れると結構傷がつきます。硬い素材としてはポリカーボネートがありますが、こっちは透明度が落ちます。今回使った、三菱ケミカルのDURABIOという素材は、その間にいるような感じで、強度もありつつ透明度も引き立てられるということで選定しました」(国府田氏)

 ストレートな円柱的な形だが、ただの棒には見えないように、先端から尻軸を結んだ線は完全にストレートになるようにして、その間では遊びが入れてある。そのため、どの角度で見るかでも形の印象が変わるのだ。細かく見ると、エッジの角度や、アクセントの入れ方など、かなり実験的なことをしていて、それが、普通のように見える。「C1」同様、「L1」も、シンプルな顔をした複雑だったりして、それが新しいZOOMシリーズが考える「和」の1つの形なのだろう。

デザイン的に最も変なことをやっていた「L2」

 「ZOOM L2」は、「L1」と比べると、かなり細身に見えるスマートなシルエットのペンだ。写真などでちょっと見る分には、女性的なシルエットの、ちょっとお洒落なペンという印象になるのかもしれない。

トンボ鉛筆「ZOOM L2」は3520円。低粘度油性ボールペンタイプとノック式シャープペンシルタイプがある。色は、マットブラック、マットシルバー、マットホワイト、マットブルー、マットグレー、マットラベンダーがある。ブラック以外は、わずかな色の違いなのが面白い

 しかし、デザイン的には、最も変なことをやっているのが、この「L2」なのだ。

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