ITmedia NEWS >

「未来はどうなっていると思う?」 考えるコツ、あります コニカミノルタとSF作家に学ぶ方法論SFプロトタイピングに取り組む方法(6/6 ページ)

» 2023年06月16日 19時00分 公開
[大橋博之ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

「描いた未来」は結果がすぐ出ない それでも役立つワケ

大橋 最後に、今後の取り組みを教えてください。

神谷 コニカミノルタとしてどこを目指していくのかを特定し、具体的に未来を描いて、実際に社会実装するところまでいきたいと思っています。具体的に未来を示すと、人を動かすための動力源になるというか。「こうありたい」という未来を描き、「これはいいかも」と心が動いて人が行動する。そうした取り組みを続けていきたいと思っています。

 また、現在の社会課題は複雑なので、一つの視点だけで答えが見つかるわけではありません。いろいろな立場・組織の人たちと一緒に考える必要があると考えています。

大橋 SFプロトタイピングを実践している企業を見ていると、デザインや企画・開発部門などが起点です。営業起点というのはあまり見ません。もっといろいろな部署がSFプロトタイピングを活用して欲しいと思います。

神谷 「未来を考えること」はすぐに答えが出るアプローチではありません。企業では中長期で取り組むことが大前提で、営業のようにすぐに成果を出さないといけない立場だとすぐに答えが出る「営業スキル」のような体系化されたアプローチでないと要望を満たせない。その一方で、企業としての経営方針を決める際にはSFプロトタイピングやスペキュラティブデザインは有効なアプローチだと思います。もっと多くの人に実践して欲しいと思います。

大橋 現在SFプロトタイピングを実践している企業は、大手の意識が高い系の企業だとも思います。

神谷 デザイン思考の場合でも、市民権を得たのはここ10年くらいです。最初は意識が高い企業から始まり、今は広く受け入れられるようになった。未来を考えるアプローチは目の前の課題を解決するために直ちに必要なメソッドではないから、今は必要ないと思われてしまうのでしょう。

大橋 どうやって広げるのかと同じ、答えがないテーマではありますね。

神谷 ただ、世の中的に求められつつある状況にはなっていると思います。2020年のダボス会議(世界経済フォーラム)で「ステークホルダー資本主義」が主題となりましたが、企業は株主の利益を第一とするという株主資本主義から、従業員や取引先、顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方に賛同している企業が多くあります。多様性や多元的なものを考える世界の潮流は確実にある。その潮流に日本の企業も賛同して関わっていくべきです。

八島 SFプロトタイピングはすぐに成果を出すのは難しい。少なくとも数十年先の未来を考えているわけですから。SFプロトタイピングを広められるのは、やはり教育だと思います。もちろん、教育の成果が現れるのにも数十年はかかります。SFプロトタイピングを通して頭を柔軟にしつつ、科学的なマインドを鍛えた人材が出て来ると、その人が起業することもあるでしょう。学生の中からも面白いことをする人が現れるかもしれない。

大橋 確かに、SFプロトタイピングを教育のプログラムとして活用するのはアリだと思います。神谷さんは未来とSFについて、いかがですか。

神谷 未来を描くとき、SFを参照するのはアリだと思います。「ドラえもん」「鉄腕アトム」といったSFアニメに慣れ親しみ、触発されて「こういう未来を創りたい」といってエンジニアになった人は多くいます。社内でもSFを例にすると食いつきがいい。人を引き付けるという意味では重要なキーワードだと思います。

八島 そうですね。SFというジャンルは英語圏作家が優勢ですが、一神教的発想だけでは描ける未来も限られてしまいます。SFでよくある黙示録的な終末観も一神教的です。ドラえもんや鉄腕アトムに慣れ親しんできた日本では、ロボットやAIに対して友好的です。そこには一神教での、唯一神と人間の対比ではなく、人間を自然(生態系)の一部と位置付ける多神教や仏教の輪廻、あるいは付喪神のようなアニミズム的な考え方があります。企業や組織と日本の作家がSFプロトタイピングをやることで、「AI仏」のような英語圏にはない面白いものができるはずです。

大橋 ありがとうございました。

photo (写真=山本誠)

 コニカミノルタが実践するデザインプロセスとSFプロトタイピングは手法が異なるだけで、未来を描くという目的は同じです。大事なのは、未来を描き、それをビジネスに役立てること。そのとき、どの手法が理解を得やすいかで選択するのが良いと思われます。

 SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。SFプロトタイパーの僕がSFプロトタイピングを提供すると共に、この連載で紹介させていただきたいと考えています。

連載:「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!

SF《サイエンスフィクション》をビジネスに活用する「SFプロトタイピング」。現実を取り払って“未来のイノベーション”を生み出す可能性を秘めた取り組みの最前線を追う。

「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.