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「未来はどうなっていると思う?」 考えるコツ、あります コニカミノルタとSF作家に学ぶ方法論SFプロトタイピングに取り組む方法(1/6 ページ)

» 2023年06月16日 19時00分 公開
[大橋博之ITmedia]

 50年後の未来はどうなっていると思いますか?――こう聞かれてすぐに答えられる人は少ないでしょう。しかしイノベーションやビジネスの成長を加速するには、現在だけでなく中長期的に将来を考える視点が欠かせません。

 そうはいっても、未来の価値は簡単に見つけられない。そこで、未来を想像する助けになるさまざまな思考法を活用することがあります。「デザイン思考」「スペキュラティブデザイン」など新しい視点を取り入れることで、未来を描くのです。

 さらに注目が集まるのが、作家が書いたSFの物語を基に発想を飛ばす「SFプロトタイピング」です。この手法にはどのような効果があるのでしょうか。

 今回はこうした手法を使って未来を描き出そうとしているコニカミノルタのキーパーソンと、SFプロトタイピングを手掛ける作家の2人に未来の描き方について聞きました。聞き手は、自身もSFプロトタイピングを手掛けるSFプロトタイパーの大橋博之さんです。(ITmedia NEWS編集部)

photo 左がコニカミノルタのキーパーソン、右が作家(写真=山本誠)

 こんにちは。SFプロトタイパーの大橋です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスなどに活用するメソッドです。

 今まで、SFプロトタイピングを実践している企業などの事例を紹介してきたのですが、今回はコニカミノルタの神谷泰史さんと、作家の八島游舷さんとの対談をお届けします。

 テーマは「未来の描き方」。どうすれば未来を描くことができるのかを語っていただきました。

見る/診る/観る 「みたい」に応えるコニカミノルタが目指す未来

大橋 まず、神谷さんはコニカミノルタでどのような取り組みを行っているのかを教えてください。

神谷 私はコニカミノルタでデザインセンター デザインイノベーショングループという、デザインによるイノベーションを目的とした部署に所属しています。

 2019年に入社する前は研究開発や商品企画、新規事業に携わっていました。当時はデザイナーではなかったのですが、デザインやアートなどのクリエイティブがイノベーション実現の動力源につながる力強いものがあると感じていました。ちょうど、海外で注目されていた「デザイン思考」が日本の企業でもはやり始めていたころです。

 今の私の軸足は、イノベーションをどのように起こしていくのか、そのためにデザインやアートなどのクリエイティブをどのように活用するのかを研究し、実践することにあります。

photo コニカミノルタの神谷泰史さん(写真=山本誠)

神谷泰史

コニカミノルタ デザインセンター デザインイノベーショングループ グループリーダー。

Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)修了。情報科学芸術大学院大学博士後期課程在籍。TAKT PROJECTアートストラテジスト。サウンドアーティスト。アートとデザイン、ビジネスの間をつなぐ方法論の研究と実践を行っている。

製造業で新規事業開発や新規事業創出の仕組みづくりを経験し、2019年にコニカミノルタに入社。「コニカミノルタデザイン思考」の体系化と社内浸透を推進する他、新価値創出スタジオ「envisioning studio」を立ち上げ、社内外との未来価値共創を推進している。


大橋 ありがとうございます。コニカミノルタについて改めて簡単にご説明いただけますか。

神谷 コニカミノルタは、コニカとミノルタという「写真」に関わる事業から始まった2社が経営統合して誕生した会社で、現在はプロフェッショナル向けプリント事業やヘルスケア事業など4事業を手掛けています。

 それぞれ「印刷物を見る」「病気を診る」「映像を観る」など、人々の「みたい」に応える事業です。

 また、未来を起点として社会課題の解決に会社全体で取り組んでいこうとしています。その未来の社会課題への取り組みとして「働きがい向上および企業活性化」「健康で質の高い生活の実現」「社会における安全/安心確保」「有限な資源の有効利用」「気候変動への対応」の5つを掲げています。

「未来を思い描く」 デザインで経営力を高める組織とは

大橋 もともと未来起点の取り組みをされているのですね。それでは、神谷さんが所属するデザインセンターをご紹介いただけますか。

神谷 デザインセンターを母体として、ブランドとイノベーションの両方に関わるデザインを扱い、クリエイティブな経営力を高めて企業の成長に貢献することが目的の組織です。2018年に経済産業省と特許庁が宣言した「デザイン経営宣言」や、コニカミノルタが掲げる経営理念の「新しい価値の創造」と、経営ビジョンの「Imaging to the People」に則した活動を行っています。

photo コニカミノルタのデザイン経営

神谷 デザインセンター内で私が立ち上げたのが「envisioning studio」(エンビジョニング・スタジオ)です。一言でいうと「未来を共に想い描き、新たな価値を可視化することで、コニカミノルタと社会へ未来貢献することを目指す新価値創出スタジオ」です。

 コニカミノルタは、コニカが創業した1873年から数えると150年という長い歴史を持つ会社だといえます。その150年の間に常に新しい価値を創造して来ました。そのため、今ある事業が未来も続いていくのではなく、未来の新しい「みたい」が存在するはずだと。その未来の「みたい」に応えるのが、コニカミノルタの社会的な意義・価値だと考えています。

 envisioning studioは、未来のコニカミノルタをenvision(想像する、思い描く)する、まだ見ぬ多様な「みたい」を発見する取り組みを行っています。

 その未来の「みたい」を作る手法としてコニカミノルタでは全社でデザイン思考に取り組み、envisioning studioでは、エンビジョニングプロセスという手法をオリジナルで開発しています。

photo envisioning studioについて
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