もちろん、決済プラットフォームを利用するコンテンツ提供者側も自衛を考慮すべきだ。プラットフォームを提供するのが私企業である以上、前述のような線引きを明確にして取引を厳格化した場合、一気にクレジットカードの利用が難しくなる。
「JCBはなぜいまだにこの手のサービスで利用できるの?」という質問をもらうことがあるが、筆者は現時点でこの情報を持ち合わせていない。推測する範囲で、前述のような「規制を介在させやすい侵入ルートがなかったこと」がその一因にあるのではないかと考える。
一方で、JCBは加盟店申請に対して財務状況を含めた比較的厳しい審査が行われていることが知られており、経営状況が不安定な小規模なアダルト事業者が加盟店になりにくいという事情がある。「JCBは大手では使えるのに、それ以外では見かけない」という状況は、こうした流れによるものとみられる。
「業者が一斉にクレジットカードの取り扱いを止めれば国際カードブランドも思い直すのでは?」「政府は介入しないの?」といった声も聞く。まず前者に関しては望み薄だと指摘しておく。
例えばStatistaのデータだが、米国におけるオンライン向けアダルトコンテンツの市場規模は2023年に11億ドル(約1718億円)規模としている。
他方で、年度はずれるがNilson Reportのデータを引用した報道で米国における2022年のクレジットカードならびにデビットカードの取扱高は10.4兆ドル(約1625兆円)となっている。
つまり、概算ではあるがオンライン向けアダルトコンテンツの市場はカード取扱高全体の0.011%程度でしかない。はっきり言って完全に無視できる水準だ。後者の政府による介入だが、前半でも触れた「大手出版社への規制」が表面化するまでは表立って動けないのが実情だと思われる。実際、筆者が取材の過程で「政府として直接動けず、どう対応していいか検討している段階」という声が聞こえてきており、まだ踏み込む段階には至っていないようだ。
最終手段としては、独自の決済手段を持つことによる自衛が考えられる。24年5月にZaifでの取引が可能になる「Skeb Coin」が知られているが、Bitcoinをはじめブロックチェーンを活用した暗号資産はこの手の取引には有用とみられ、一部地域での規制や取引における制限はあるものの、今後国境を越えた取引でクレジットカード以外の有力な支払い手段として機能する可能性がある。
これ以外にも、クレジットカードを使わずともトークン等の取引でオンライン上での取引を可能にする決済プラットフォームがいくつか出現すると考えられ、代替手段の提供による取引の多様化に寄与するだろう。
注意点としては、やはり小規模な事業者が運営する電子マネー的な取引手段であったり、値動きの激しい暗号資産や取引リスクを伴うステーブルコインの取り扱いについて、ユーザー側がきちんとリスクを認識しておくということがある。また、あまりに野放図なアダルトコンテンツの流通は逆に(日本の)政府機関の介入を招く可能性があり、業界としてある程度の自主規制によるルール運用を行ったうえで、こうした権力の介入を未然に防ぐ必要があると考える。重要なのは、何事も「やりすぎはよくない」ということだ。
DLsite、Visa・Mastercardのクレカ利用を一時停止 期間については「回答を控える」【追記あり】
海外ブランドクレカの成人コンテンツ決済停止、長期化の様相 サービス継続を断念するケースも
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