記者という仕事をしていると、日々さまざまなニュースの“ネタ”が舞い込んでくる。すでに大手が報じているもの、まだ誰も見つけていないもの、あまり面白くないものと種々だが、最近よく見かけるのは“あざといもの”だ。
メディアやSNS受けを狙ったものと言い換えてもいい。あえて過激なことや奇特な発言をし、SNSで注目を集める。数字が集まるとメディアが注目するので取材に来る。取材の場で詳しい情報を出し、さらに耳目を集める──そういう“メディアとの共犯関係”を狙った話題のことだ。
これを、資金調達直後のスタートアップでよく見かけるようになった。確かに合理的だ。大きなニュースがあったタイミングで、noteなりオウンドメディアで過激な発言をする。そこで注目を集め、起業家や投資家の間で話題を起こす。そうするとメディアが寄ってくるので、そこで発信し、一般向けにも話題にする。掲載実績もバッチリ、広告費も浮く。
最近だと、飲食店向けのモバイルオーダーサービスなどを手掛けるダイニー(東京都港区)が目立った。同社の山田真央CEOは9月、74億6000万円の資金調達を発表すると同時に、自身のnoteで「『1塁打』を狙う日本のVCに、存在価値はあるのだろうか?」というタイトルの記事を公開した。
内容は目先の数字を追う国内のVC(ベンチャーキャピタル)やスタートアップエコシステムを批判するもの。併せて、同社が外食産業向けサービスに取り組む理由などを紹介していた。
ダイニーによる9月の資金調達は、海外のVCからのみの調達だったこともあり、投資家や起業家など“スタートアップ界隈”はしばらくこの話題で持ち切りに。SNSでもさまざまな議論の火種になった。
生き馬の目を抜くスタートアップ業界において、使えるものは使うべきという考えは当たり前だろう。とはいえ過激な情報発信は、転じて周囲の不信感や嫌悪感も買いかねない。ある意味でリスキーで覚悟がいるやり方だと思うし、同じく情報の発信者として思うことがないでもない。
そこで今回は、ここまで話したような情報発信の背景や戦略について、スタートアップに直接意見や疑問をぶつけてみた。相手は先述したダイニー山田CEOと、同社広報の根岸紗菜さん。全て素直に答えてもらえたわけではないだろうが、その回答からはスタートアップによるクレバーな広報戦略の一端がうかがえた。
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