──まず率直にお伺いしますが、noteの内容はどこまで本気なんでしょうか?
山田CEO:2000%本気です。各省庁が出しているホワイトペーパーなどを見てもらえれば分かりますが、(日本の)貿易赤字が広がってきています。
自動車産業がなんとかけん引していますが、肝心なエネルギーは輸入頼みですし、日本人が得意だったはずのサービス産業自体も厳しい状況で、いわゆる知的サービス産業といわれるIT・コンサルティングはほぼ外国からの輸入に頼っている状態です。かつて栄華をほこった経済大国日本が沈んで行ってしまうんだろう、というのは、世の中一般でいわれていることですし、数字を見ると手に汗握るほど危ないと感じています。
そうすると、僕らの子どもや孫の世代が苦しい思いをするのだろうな、というのが目に見えています。日本人は勤勉ですが、それが格安の労働力として未来が見えていて、それが嫌だなと思いました。それを避けるためには日本人全員がイノベーションを起こし、資本主義を戦っていくしかないな──と思い、(noteのような)発信をしました。
──いまお伺いした内容と、山田さんが発信していた内容は少し遠いような気もします。noteにあったようなエコシステムへの投げかけと、日本経済についての懸念はどうつながるのでしょうか
山田CEO:2013年のスタートアップエコシステムで回っていたお金がだいたい2000億〜2200億円くらいです。そこから、VCは最低でもその3倍くらいを自分の取り分にしなければいけないわけです。つまり23年には6000億〜6600億円くらいにする必要がありました。
しかし計算してみると、上場したスタートアップが60社くらい、平均時価総額が170億円程度で、だいたい1兆円くらい。VCの取り分が50%だとして、5000億円くらいにしかなっていません。最低限を割ってしまっているのが現状です。
直近のファンド組成を見ると、2022年度は6000億〜7000億円くらい。ということは、10年後には3兆6000億円まで伸ばし、1兆8000億円を作らなければいけません。
しかし、それを本当に作れるんでしょうか? 10年後に上場する会社の時価総額を全部足した際に、本当に3兆6000億円になっているかと問われると、結構難しい状況だと思います。もちろんダイニー単体で3兆6000億円くらい大きな金額でのIPOをしたいと考えていますが。
しかも、日本に存在する優秀な人材は数が限られます。3兆6000億円はリソースを分散していては実現できない規模感です。だからスタートアップ全体の未来を考えると、どこかに人材やお金を集中すべきだと思っています。いずれにせよオールジャパンで挑まなければいけない。
じゃあ「どこにリソースを集中しますか?」となったときに、ダイニーだとうれしいな、という。
──なるほど。ゆえに「ホームラン狙い」を強調していたと。ちなみに、note記事内では「海外はホームラン狙い」「日本は一塁打狙い」としていましたが、この差にはいつどのように気付いたのでしょうか
山田CEO:2023年に、NotionやAirbnb、Stripe、Toastといった米国企業の経営層と直接話をしました。会話をしてみると「なんで日本人は日本だけで動いているんだろう」など、自分も含めそもそも視座が違うことに気付き、強烈に反省しました。
実際に資金調達を開始してからも、50社くらいのグローバル投資家と話をしたのですが、「あなたはホームランを打てますか」というコミュニケーションも多く、彼らは本当にホームランを探していると感じました。
日本の投資家からは(同様の質問を)されたことがありません。「ペイバックどれくらいですか?」「KPIどのくらいですか?」「何年くらいに東証でIPOしますか」など、目先の話が多かったなという印象で、そういった経験を通した違和感がありました。
──一方で後日、記事について「採用の加速が狙いだった」との“ネタばらし”もありました。効果のほどはいかがでしたか?
山田CEO:応募の数は前月までの平均で約10倍になりました。
──人材採用に当たっては他にもさまざまな手段があったかと思いますが、今回のような一手を選んだ理由は
山田CEO:採用面で言えば「日本のスタートアップ界隈を憂いていて、一定の実績を持ったうえで、VCと対等にコミュニケーションできるスタートアップ」というポジションががら空きだったので、そこを取りに行きたかった、というのはありますね。
「エンジニアリングの強い会社」「セールスの強い会社」とかは無限に挙がるんですが、このポジションはがら空きだったので、オンリーワンになれるな、と。
──なるほど。ビジネス、特にスタートアップにおいて本音と建前が混在するのは当たり前とは承知の上で、いち記者としては、本来の目的を隠して“あおり”を含んだコンテンツを発信するのは、情報の受け手に対してあまり誠実でないというか、さまざまな意味でリスキーなコミュニケーションとも感じます。山田さんが今回のような情報発信をしようと考え至った経緯を教えてください
山田CEO:自分の中では、本音と建前というより“先行指標と結果指標”みたいな分け方をしていました。採用は数字は先行指標として見ていただけで、結果指標は日本からホームランを出すことにあります。
世界で“場外ホームラン”を打っている会社は、プライベートエクイティの状態で1000億円規模の資金調達をしています。上場のタイミングではさらに1000億、2000億と調達します。これだけのお金があると、産業は変わります。一方で日本の場合はIPO時の時価総額の平均がだいたい170億円くらい。資金調達も16億円程度です。これで産業の変化は起こりません。
同じように革命を起こそうとしている人がいて、世界では高い値段が付くのに、方や日本はこれだけです。VCも期待値170億円なので低い企業価値しかつけないし、低額の投資しかしないゲームになってしまっています。
(業界が)こういったデッドロックに陥っているので、誰かが声を上げないと変わらないなと思いがありました。ただ、これは数カ月では確認できません。5年、10年単位で見ないと、効果があったかは確かめられません。
──具体的に、スタートアップやそれを巡るエコシステムをどのように変えたいと?
山田CEO:僕が考えた結論は「黒船を連れてくる」ことです。不遜な言い方にはなりますが、日本のスタートアップエコシステムは、ダイニーという素晴らしい日本発スタートアップに対し、残念ながら投資の機会を逸してしまいました。
ダイニーがどれだけもうかっても、日本のVCはさほどもうからない──という構造を意図して作りました。こういう構図を作ることで「“170億プレイ”をしていたらいい会社に投資できない」と、日本のVCもようやく気付くだろう、と。
実は、問題はもう一つあります。スタートアップとVCの“主従関係”です。投資をしてもらう以上仕方ないですし、VCも「偉いのは起業家ですから」と言いますが、日本は投資家とスタートアップの数が釣り合っていないので、どうしても投資家の方が偉い構図になってしまいます。これは誰が悪い、というわけではないのですが。
とはいえ、この状態で声をあげられるのはスタートアップだけです。VCにとっては低いバリュエーションで投資できる、“安く買って高く売れる”良い状態なので、抜け出すことはできません。そう思って今回のような発信をしました。
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