例えば、米HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)は、生成AI技術を活用して、音声コマンドによる直感的な3Dコンテンツ作成を実現。これは音声で指示するだけで、瞬時に3Dモデル、画像、環境を生成するという革新的なアプローチだ。
その実用例として、HPEが創業した車庫で知られる「HPガレージ」のデジタルツインを展示する仮想企業博物館や、月面基地を舞台にTED Talkスタイルのプレゼンテーションを行う3D環境を構築している。AI技術の進化は、こうした開発能力をさらに強化・高速化するとともに、より低コストな開発を可能にすると考えられている。
また、メタバース空間内において、人間が操作するアバターとコミュニケーションすることが可能な、自律型のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を実現することにもAI活用が始まっている。
例えばAIプロダクトメーカーの米Inworld AIと米NVIDIAは、「Covert Protocol」という技術デモを共同開発した。これは一種の推理ゲームで、プレイヤーは探偵となり、AI駆動のNPCから手掛かりを集めることになる。
各NPCには独自の性格、動機、事件解決に関係する知識がLLM(大規模言語モデル)により付与され、さらに表情の画像や音声も生成するようになっており、「彼ら」とプレイヤーの交流が、ストーリー展開に影響を与えるという内容だ。
こうしたAIキャラクターは、メタバース空間内に他のユーザーが参加していないときでも、訪問者を自然言語で出迎えてインタラクションできる。つまりメタバース空間での体験をより生き生きとした、より社会的なものにすることが可能で、メタバース空間の魅力を高めることに貢献すると考えられる。
これらの領域における技術革新はいずれ達成され、手軽かつ安価で参加でき、魅力的なコンテンツと他のキャラクターとの交流(AIを相手にしたものを含む)が用意できるメタバース空間を実現するだろう。しかしパンデミックによる行動制限、それによるバーチャルコミュニケーションへの移行という、いわば「追い風」を失ったいま、誰もがメタバースに参加したくなるような「キラーコンテンツ」は登場するだろうか。
いくつか期待されている分野がある。例えばヘルスケア分野でのメタバース活用は急速に拡大しつつあり、25年の市場規模は約149億ドル(約2.1兆円)、33年には約991億ドル(約14.3兆円)に達すると予測している。
医療用トレーニングでは、VR技術により医学生や外科医が安全な仮想環境で複雑な手術手技を練習できるようになった。医療機器メーカーの米Johnson & Johnsonは、VR技術を開発する米Osso VRと提携し、外科医向けに200台のVRヘッドセットを配布するなど、大手医療企業も積極的に導入を進めている。
また遠隔医療においても、仮想病院「Aimedis Avalon」が登場し、医師は仮想空間で診察や患者モニタリングを実施できるようになっている。
また教育分野におけるメタバース活用も進んでいる。単なるリモート授業ではなく、メタバースを活用することで、教科書では不可能な教育方法が可能になる。例えば米メリーランド大学では、スイスのマッターホルンの上空を飛行しながらこの山に関する知識を得たり、舞台恐怖症などの身体的プレッシャーを感じることなくプレゼンテーション技術を学んだりといった活用が進んでいる。
Metaの発表によると、既に没入型技術を青少年向けの教育に導入している43校を対象とした調査では、学生の87%が授業への意欲や関心が高まったと答え、教員の85%がVRやMRは授業の効果を高める手段として有用だと答えた。
また、学生向けの多肢選択式テストでは、約15%の成績向上が見られたという。このような実践的な成功事例の蓄積により、教育分野はメタバース人口増加の推進力の一つとなることが期待されている。
こうした分野に特化したユースケースが次第に増え、パッチワークのように少しずつ普及しながら、何らかのキラーコンテンツが登場してくる可能性もある。それは「ブーム」と呼ばれるような、劇的な変化ではないかもしれないが、少なくともメタバースが「終わった」わけではないだろう。
ビジネスとして継続することの難しさは確かにあるが、技術的に可能な範囲の拡大と、その中における実験的な取り組みの増加が両輪となって、メタバースの浸透が着実に進んでいくことを期待したい。
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