東芝の燃料電池が製品化間近だ(2003年10月の記事参照)。「今年中に、特定ユーザー向けの販売までもっていきたい」。同社の宮本浩久工学博士(研究開発センター給電材料・デバイスラボラトリー主任研究員)は、今後のスケジュールをこう話した。
CeBITで東芝はノートPC向けの燃料電池を展示。光学ドライブ内蔵のB5サイズノートPCを連続駆動させるデモを行った。出力12ワットで、100ccのメタノール燃料で10時間の動作が可能となっている。
2年前に、PDAを燃料電池で駆動させて以来(2002年1月の記事参照)、昨年のCeBITではミニノートPCのLibretto(2003年3月の記事参照)、今年はB5サイズノートPCと、徐々にステップアップしてきた東芝。「かなり安定して動作させられるところまできた」と宮本氏は話す。
メタノールを直接燃料として利用するDMFC(Direct methanol fuel cell)のうち、東芝は100%メタノールを内部で希釈して利用するアクティブ方式を採用している(2003年4月の記事参照)。発電時に発生する水を使い、100ccの燃料を3〜6%に希釈して利用する。あらかじめ希釈した燃料を使うパッシブ方式に比べて水を循環させるポンプなど機構は複雑になるが、少ない燃料で長時間動作が可能。
昨年のLibrettoを動作させていた燃料電池との違いは“安定性”だ。「メタノールの濃度などを検知する小型センサーを開発したり、ポンプや材料の改善を行い、安定化させた」(宮本氏)。昨年はメンテナンスなどがたびたび行われていたが、今年は燃料交換時以外はメンテナンスフリー。実用化への秒読み段階に入っているのが分かる。
システムのスタートアップには、ノートPCのリチウムイオン電池を使う。Librettoでは燃料電池システムにスタートアップ用のバッテリーを内蔵していたが、今回はノートPCの電池を利用する。
技術的にはノートPC向けに製品化も見えてきた燃料電池。今後の課題は法規制と燃料供給インフラの整備だ。
経済産業省主導で安全性や規格化を進める話し合いがもたれているが、「(この燃料電池の発売には)おそらく法規制が間に合わない」と宮本氏。航空機内や公共輸送機関への燃料の持ち込みが燃料電池の利用を想定したものになっていないだけでなく、販売店での燃料の取り扱いも課題。大量の燃料を保存することで消防法の規制にかかる可能性もある。
各社が燃料電池の開発を進めているが、扱う燃料やカートリッジの種類がバラバラなのも課題だ。100%濃度を使う東芝に対して、日立やNECなどは希釈した燃料を使う。カートリッジの形状も異なり、普及のためにはある程度の共通化が必須だ。東芝が早期の製品化を目指す背景には、既成事実として市場に製品を供給し、デファクトスタンダードを目指す狙いがある。
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