では、PhysXを使うことでユーザーはどのようなメリットを受けられるのか。物理演算専用エンジンであるPhysXはハイエンドGPUのようにベンチマーク結果の絶対値を押し上げるものではなく、ゲームに登場する物体の挙動が「それらしくなる」ことに意義がある。数値として「これだけ結果が向上した」と示せるものではないのでユーザーとしてはその効果が把握しにくいかもしれない。数値として示せるベンチマークとして考えられるのがFuturemarkの3DMark06のCPU TESTだ。このテストはPhysXに対応していることになっている。そこで、数値的にPhysXの効果はどの程度表すことができるか、システムの構成を換えながらこの値を見てみよう。
テストではまずハイエンドユーザーを想定してAthlon 64 FX-60とGeForce 7900 GTXを組み合わせた構成でPhysX P1と組み込んだ場合と組み込まない場合とで3DMark06(Build 1.0.2)のCPU TESTを行ってみた。
CPU TESTの結果も「CPU1」「CPU2」それぞれ個別の値もPhysXの有無で違いがない。CPUのパワーで状況が異なるかと考えCPUをAthlon 64 3500+に変更しても状況は変わらなかった。ちなみに、Futuremarkの資料には「AGEIAの物理演算エンジンは87体のボットを制御している」ことは説明されているが、それがスコアにどのように影響するかについては述べられていない。
PhysXの効果を検証するもう1つのテストとしてPhysX P1についてきたPhysX対応ゲーム「Tom Clancy's Ghost Recon Advanced Warfighter」を使い、描画や物体の挙動がどうなるか見てみよう。「Tom Clancy's Ghost Recon Advanced Warfighter」は、リアルコンバット系FPSの名作「Rainbow Six」を源とする特殊部隊FPSの最新作である。
AGEIAは「細かい破片や爆破された物体の挙動に違いがある」と説明しているので、そのシーンでPhysX P1を組み込んだ場合とPhysX P1を外した場合とで描画や破片の挙動を比べてみた。
繰り返しになるが、物理演算の専用ユニットであるPhysX P1は、ベンチマークの結果を押し上げるものでもないしアンチエイリアシングや異方性フィルタリングのサンプリング数の上限を上げてくれるものでもない。しかし、PhysXに「対応している」ゲームタイトルで物体の挙動に「それらしい」雰囲気を与えてくれる。いままでおざなりにされてきた部分であるだけに、リアル志向のFPSやフライトシミュレータのような「物理の法則」が重要な意味を持つゲームタイトルにおいては実に効果的な拡張パーツとなりうる可能性がある。
ただし、現時点において早急にPhysXを実装したカードが必要である、と評価するのは難しい。対応しているゲームタイトルも少ないし、対応していてもその効果は限定されていると言わざるをえない。PhysXのデモンストレーションゲームともいえる「CellFactor」でPhysXの効果的な例としてよく紹介されていたのが「膨大な物体が次々と崩れるように吹き飛んでいく」シーンであるように、PhysXの効果が最も劇的に確認できるのはまだ特定の局面でしかない。
物体の挙動を制御する物理エンジンに(オブジェクトの数だけでなく)多くの要素が絡む精密なアルゴリズムが実装され、かつ、それが重要な意味を持つゲームタイトルに実装されたとき、PhysX(そしてそれを実装したPhysX P1)が持つ性能が多くのユーザーから必要とされるのではないだろうか。
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